『死にゆくあなたへ 緩和ケア医が教える生き方・死に方・看取り方』アナ・アランチス著(飛鳥新社)

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死にゆくあなたへ

『死にゆくあなたへ』

著者
アナ・アランチス [著]
出版社
飛鳥新社
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784864109161
発売日
2022/07/27
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

『死にゆくあなたへ  緩和ケア医が教える生き方・死に方・看取り方』アナ・アランチス著(飛鳥新社)

[レビュアー] 中島隆博(哲学者・東京大教授)

「美しい死」迎えるために

 死にゆく人の最期が安らかであること。ブラジルで緩和ケアの第一人者である著者は、来(きた)るべきときにやってくる「自然死」、さらにはその先にある「美しい死」へと患者を導く。

 しかし、そのような「美しい死」のためには十分な準備が必要だ。医療者の側では、病気の治療ができなくなっても、病気を患う「人」に対して行うケアのスキルを身につける必要がある。ケアの基本は、共感ではなく同情だ。

 どちらも他者の立場に立つ能力だが、共感は他者の苦しみを自分で取り込んでしまうのに対して、同情はその苦しみに感化されずに、理解し別の形に変えることができる。著者は繰り返し、自分のケアができてこそ他者のケアができると言う。自分をなおざりにして燃え尽きさせてはならないのだ。

 患者の側でも、押し寄せてくる後悔に飲み込まれないように、日々をできるだけよく生きるようにしなければならない。著者が提案する秘訣(ひけつ)は、「感情を表す、もっと友人と過ごす、自分を幸せにする、自分のための選択をする、人生に意味をなすために働き、仕事を目的にしないこと」である。

 それは、生きながら死んでいる人にならないということでもある。

 患者の家族やまわりの人もまた、喪失を味わう前に、「赦(ゆる)し、感謝し、愛情を示し、世話することによって、感情を浄化するすばらしい機会を得られ」るようにし、患者の死を経験した後は、悲しみに浸るとともに、その人との思い出を振り返ることで、決して消えることのない愛を確認する。

 こうして迎える「美しい死」の過程において、それに関与する誰もが「人間化」してゆく。これが著者の核心にある人間観である。

 「死にゆく誰かのために私にできる最善のことは、ただそこにいることです」

 すべてを削(そ)ぎ落としたとき、もっとも人間的な行為は、そばにいることなのだ。コロナ禍だからこそ、よけいに考えさせられる人間観である。鈴木由紀子訳。

読売新聞
2022年9月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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