『宙ごはん』町田そのこ著(小学館)

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宙ごはん

『宙ごはん』

著者
町田 そのこ [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784093866453
発売日
2022/05/27
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

『宙ごはん』町田そのこ著(小学館)

[レビュアー] 南沢奈央(女優)

「家族」で食卓囲める幸せ

 わたしの父は忙しい人だった。仕事の帰りが遅く、平日に夜ごはんを一緒に食べることはほとんどなかった。だけど、家族のコミュニケーションはちゃんと取れていた記憶がある。大人になってからそんな話をしたら、父にはこれだけは守ると決めていたことがあった。それは、朝ごはんをみんなで一緒に食べること。今思えばとても尊い時間だったのだと、本書を読んで気づかされた。

 食卓を囲めたらそれが幸せ、そう思わせてくれる5編からなる連作短編小説だ。主人公・宙(そら)には、育ての母と産みの母がいる。たっぷり愛情を注いで育ててくれたママを離れ、産みの母の花野と暮らすことになる。だが、イラストレーターの仕事に追われてご飯を作ってくれないどころか、一緒にご飯を食べることすらしてくれない。母娘ですれ違う生活の中、花野の後輩で料理人の佐伯から料理を教えてもらい、宙は哀(かな)しみや痛みを乗り越える方法を見つけていく。宙とともに、「家族」が成長していく物語だ。

 母のスキャンダル、モラハラ、彼氏の嘘(うそ)、大切な人の死……人生は楽しいことばかりではない、とでも言うように、描かれるのは辛(つら)いことや哀しいこと。でも壁にぶつかるからこそ、今まで見たことがなかったその人の一面を知ることになる。いくら家族でも、知らないことはたくさんある。だけど知れる機会は確かにあって、一方で完全には分かり合えないところもあるという現実もちゃんと突き付けられる。

 決して一筋縄ではいかない家族。それでも一つの食卓を囲んで、一緒に「美味(おい)しい」と言えるだけで、奥深いところで繋(つな)がれるのかもしれない。「思いがこもった料理は、ひとを生かしてくれる」とは希望に満ちた良い言葉だ。本書で描かれる家族の食卓を見て、読者それぞれの食卓の思い出が蘇(よみがえ)ることだろう。そしてきっと、顔がほころび、体の内側からあたたかくなってくるはず。

読売新聞
2022年9月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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