部下のやる気のなさに悩む前に、向上心を見極めよう! 鴻上尚史さんが考えるリーダーの役割

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鴻上尚史のなにがなんでもほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋

『鴻上尚史のなにがなんでもほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』

著者
鴻上尚史 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784022518545
発売日
2022/08/19
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

部下のやる気のなさに悩む前に、向上心を見極めよう! 鴻上尚史さんが考えるリーダーの役割

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

鴻上尚史のなにがなんでもほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』(鴻上尚史 著、朝日新聞出版)は、月刊誌「一冊の本」およびニュースサイト「AERA dot.」に2020年9月〜21年6月まで掲載された同名タイトルの連載を一部修正し、新規原稿を加えたもの。

好評シリーズの第4弾であり、2019年には『鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』を、2021年には『鴻上尚史のますますほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』をご紹介したことがありますので、記憶に残っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

僕がこうやって4年間、『ほがらか人生相談』を続けられているのは、文章だからだと思います。自分の悩みを文章にしようとすると、「どんなふうに書けばいいんだろう」「どの順番で書けばいいんだろう」「どの点を強調して書けばいいんだろう」「どれぐらいの長さで書けばいいんだろう」と、いろいろと理性的な思考を必要とします。

そうすると、嫌でも人は自分が抱えている悩みと客観的に向き合うのだと思います。(「あとがきにかえて」より)

もうひとつ印象的なのは、なにがあったとしても「一歩一歩、粘り強く戦うしかない」のだと著者が述べている点(ただし、口調は柔らかです)。たしかに粘り強く戦わなければどんなことも乗り越えられませんが、本書を通じ、そのための手助けをしているとも解釈できそうです。

きょうはそのなかから、仕事に関連する悩みと回答をご紹介することにしましょう。

部下のやる気を引き出す方法について

僕は最近、営業部門のチームマネージャーに昇進しました。

自分でいうのもなんですが、自分は営業成績はずっとよくて、全国で月間1位になったことも何回かありますので、僕の昇進は周囲も認めていると思います。

それで、チームマネージャーになってからの悩みは部下がどうしたら頑張ってくれるかということです。いま、チームは10人いるのですが、ガッツがないというか、本当にやる気があるのかとイライラするような部下が2人います。

客に言われた苦情や僕の指導の言葉をいつまでも気にするし、呑み会で今後仕事をどうしたらいいかと聞いたら成績もぱっとしないやつが「平均よりは上をとりたいですよね。そこそこの成績ではいたいです」と。でも僕からしたら、そこそこじゃ困るんです。向上心がないと、営業に向いてないのに、正直、指導する気持ちが萎えます。

部下を呑みに誘って、もっと積極的に客に働きかけられるようアドバイスもしていますが、なんか響かないように感じます。(中略)僕は顧客の家に何度も足を運んだり、就業時間外の努力で営業成績もトップをとってきたのです。

チームの成績もあげなくちゃならないし、パワハラはしていないつもりですけど、やる気があるんだかないんだかよくわからない部下を見ているといらつきます。(後略)

35歳・男性 サスペンダー(64〜65ページより)

著者が40年ほど、「第三舞台」という劇団で若い世代と一緒に芝居をつくり続けてきたことは有名な話。しかしその40年間を振り返ってみても、この相談者のようにガッツと野望にあふれた若者の割合は、明らかに減ってきているのだそうです。

すべてを犠牲にして演劇に打ち込むというよりは、自分の生活をきちんと守りつつ、自分の楽しみを優先し、演劇と適切な距離でつきあう若者が増えてきたのでしょう。

劇団を主宰している若手演劇家にも、「絶対に売れたいとかあんまり思ってないです。ただ、楽しく自分なりに続けられたらいいんです」とか、「なにがなんでも観客を増やしたいとは思ってないです。学校とかで教える道もあるかなと思ってるんです」などと話す人が増えたのだとか。

著者が20代のころは、自身も周囲も「絶対に演劇界のテッペン取ってやる!」と鼻息を荒くしていた人間ばかりだったというので、ずいぶん変わったのでしょう。

とはいえ著者は、「自分の楽しみを大切にする」のはとてもいいことではないかと考えているそう。なんにも楽しくないのに、歯を食いしばりながら無理をしてがんばるようなあり方は不健全だというのです。

もちろん仕事の場合はそうもいかないでしょうが、演劇でも趣味としてやるか、経済的に自立した活動としてやるかによって、観客を獲得する厳しさは違って当然。しかしそれでも、根底には「自分の楽しみを大切にする」という考えがあることが重要だということ。

世の中には、「難度の高い仕事」を与えられると、逆にやる気をなくして落ち込んでしまうというタイプの人もいるのです。

別の言い方をすると、ガッツと野望を重要だと考えない人です。

その代わり、「楽しさを大切にしたい」「自分の感情に正直でありたい」「苦しいことは続けたくない」と思っている人です。

ガッツと野望に溢れた人からだと、「淡白」「欲がない」「やる気が感じられない」と見えますが、ちゃんと欲もやる気もあると僕は思っています。ただ、ガッツと野望に満ちた人の考える翼や野望とは、質と種類が違うのです。

サスペンダーさんは、「向上心がない」と書いていますが、向上心はあって、その目指す方法が違うのです。(69ページより)

たしかにそこを見極めることも、リーダーにとっての重要な役割でしょう。(64ページより)

「向上心」の方向は人それぞれ

ガッツと野望のある人は、ついつい、他人にも同じようにガッツと野望を求めてしまいがちですが、そのことで却って萎縮したり、落ち込む人も多いのだということを知るのはとても大切なことだと思います。(75ページより)

こう主張する著者は、人間は誰でも「向上心」を持っていると考えているのだそうです。ただし、その方向が人それぞれ違っているもの。

周囲がまったく理解しないことの調査・研究に情熱を注いだり、自分だけの「推し」に熱狂したり、仕事にはまったく興味がなくても趣味に熱中したり、方向と対象は違いますが、人間は基本的に「向上心」を持っていると思っているのです。

ですから、一概に「あいつは向上心がない」と結論づけるのは早計だと考えます。(75ページより)

ただしひとつのチームである以上、いろんな方向を向いた「向上心」を、できる範囲で仕事の方向に近づけることも必要で、それがリーダーの役割。10人のチームであるなら、いろんな人がいて、仕事にもさまざまな顧客や条件があるはず。

したがって、難度の高い仕事、難度の低い仕事を振り分け、きちんとほめて、メンバー全員に「仕事の楽しさ」を経験してもらうことこそが、リーダーのもっとも重要な役目だと著者はいうのです。自分自身がチームリーダーとして、楽しみながら仕事をし、その姿を部下に見せることもまた重要だとも。(64ページより)

本書の巻末で著者は、「人間は変われます」と断言しています。変われると思った人だけ、変われるのだと。逆に言えば、変われないと思った人は変われないということ。これは、生きていくうえで重要なポイントではないでしょうか?

Source: 朝日新聞出版

メディアジーン lifehacker
2022年8月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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