ランニングとウォーキング、どちらが不安感を軽くする?運動が脳にあたえる驚くべき効果とは

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ランニングとウォーキング、どちらが不安感を軽くする?運動が脳にあたえる驚くべき効果とは

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「脳にとっての最高のエクササイズとはなにか?」と聞かれたら、クロスワードパズルなどを思い浮かべるかもしれません。

精神科医である『運動脳』(アンデシュ・ハンセン 著、御舩由美子 訳、サンマーク出版)の著者も、15年前ならそうだっただろうと認めています。しかし意外なことに、その答えは「身体を動かすこと」なのだそう。

身体を動かすと気分が晴れやかになるだけでなく、あらゆる認知機能が向上するというのです。たとえば記憶力が改善し、注意力が研ぎ澄まされ、創造性が高まるのだとか。それどころか知力にまで影響が及ぶというのですから、たしかに脳にとって最高のエクササイズであるといえそうです。

私が言いたいのは、たとえば通勤するときは車を使わずに自転車をこぐ、テレビばかり見ていないで庭いじりや散歩をする、そういったことだ。身体を動かすのであればどんなことでも有効であり、その一歩一歩が脳にとって価値がある。いつ、どこで、何をするかは大した問題ではない。(「アンデシュ・ハンセンからのメッセージ」より)

ご存知のとおり脳のなかでは絶えず新しい細胞が生まれ、互いにつながったり離れたりしています。なにかをするたび、なにかを考えるだけでも、脳は少しだけ変わるわけです。著者はそれを、「固まらない粘土のようなもの」だと表現しています。そして、身体を動かすことほど、脳に影響をおよぼすものはないというのです。

運動をすると気分が爽快になるだけでなく、集中力や記憶力、創造性、ストレスに対する抵抗力も高まる。そして情報をすばやく処理できるようになる。つまり思考の速度が上がり、記憶のなかから必要な知識を効率的に引き出せるようになる。(「はじめに」より)

きょうは第2章「脳から『ストレス』を取り払う」のなかから、いくつかのトピックスを抜き出してみたいと思います。

ウォーキングとランニング、どちらが有効か

ストレスと不安が簡単に切り離せないのは、両者は同じ回路(HPA軸や扁桃体など)によって引き起こされるから。そして運動がストレスに目覚ましい効果をもたらす一方、不安にも絶大な効果があるのは発生源が同じだからなのだそうです。

ある実験において、不安による疾患を抱えたアメリカの大学生たちが、くじ引きでウォーキングかランニングのどちらかを選び、それを疲れない程度に週に数回、20分ずつ2週間にわたって続けた。

ウォーキングにしてもランニングにしても、それほど大層なプログラムではない。しかし、ウォーキングをした生徒もランニングをした生徒も、不安感が軽減したのである。その効果は運動した直後に実感でき、その後も消えることなく、まる1週間続いた。

だが、どちらの生徒が、より高い効果を実感しただろうか。答えはランニングをした生徒たち。不安を軽減したい場合は、肉体にある程度の負荷がかかるほうが効果は高いのだ。(104ページより)

これは当然の結果だと著者はいいます。不安は脳のストレス反応が過剰になることによって、また危険がなくても扁桃体が警告を発することによって起きるもの。しかし運動をすると、脳のブレーキが強化されて前頭葉と海馬が扁桃体の興奮を鎮めるため不安が抑制されるというのです。(103ページより)

心拍数を上げて脳に「予行演習」させる

不安障害の症状が始まると、心拍数と血圧が上昇する。脳は何か悪いことが起きるはずだと解釈して、心臓の鼓動が激しくなり、体が「闘争か逃走か」の体制を整える。

これが不安やストレスに身体がさらされたときの一連の流れだ。(105ページより)

しかしジョギングに出かけてなにごともなく走り終えたとしても、やはり動悸は激しくなるでしょう。ところが走り終えたときに気分は穏やかになり、脳内でエンドルフィンとドーパミンと呼ばれる物質が放出され快感を覚えることになります。

つまり身体を動かすことで「心拍数や血圧が上がっても、それは不安やパニックの前触れではなく、よい気分をもたらしてくれるものだ」と運動が脳に教え込むのである。

これが、アメリカの不安障害の大学生たちが、ウォーキングやランニングによって体験した効果である。ランニングをした生徒たちは、心拍数が上がっても不安に襲われなくなった。

ランニングを始める前、生徒たちの脳は心拍数の上昇を不安の発作が始まる前触れだと思っていたが、その後、彼らの身体は「心拍数が上がることは恐ろしいことではなく、好ましいことだ」と解釈して適応したのである。(105ページより)

なお、この効果はウォーキングのグループには見られなかったといいます。彼らの脳は、依然として「心拍数が上がること=危険」と解釈していたのかもしれません。

いずれにしてもこの結果の違いは、「不安や悩みごとを克服するには、身体をより活発に動かすべきだ」とはっきり伝えているのだと著者。

いいかれば、不安や悩みごとで深刻な症状がある人こそ運動をすべきだということです(ただし、これまで一度でもパニック発作を起こしたことがあるなら、慎重に進める必要があるようです)。(105ページより)

運動から「得られるもの」はあまりに大きい

運動とストレスに関するさまざまな研究論文にじっくり目を通していると、ある事実が浮かび上がってくると著者は指摘しています。ストレスと運動は、ほぼ正反対の作用を脳に与えているというのです。

・ストレスが増すと、つまりコルチゾールの血中濃度が高くなると、脳内で情報を伝達する機能が妨げられるが、運動は逆にその機能を高める。

・ストレスは脳の変化する特性(可塑性)を損なわせるが、運動はそれを高める。

・ストレスが高まると短期記憶(数分から数時間の記憶)が長期記憶に変わる仕組みにブレーキがかかるが、運動はその逆の作用を促す。(107ページより)

これ以外にもいろいろあり、つまりは脳内のあらゆる領域で、ストレスと運動は正反対の影響をおよぼすというのです。著者が「運動は、ストレスや不安を消し去る本物の解毒剤なのだ」と主張していることには、そんな理由があるわけです。(107ページより)

運動が脳におよぼす効果や、その理由についてもわかりやすく解説された一冊。よりよい状態を維持するために、参考にしてみる価値は充分にあるはずです。

Source: サンマーク出版

メディアジーン lifehacker
2022年9月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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