同じ年、同じ日に生まれた二人が、小説家となって出会う。君嶋彼方×浅倉秋成 奇跡の共通点対談!

対談・鼎談

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夜がうたた寝してる間に

『夜がうたた寝してる間に』

著者
君嶋 彼方 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041128329
発売日
2022/08/26
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

同じ年、同じ日に生まれた二人が、小説家となって出会う。君嶋彼方×浅倉秋成 奇跡の共通点対談!

[文] カドブン

構成・文/吉田大助 写真/橋本龍二

■『夜がうたた寝してる間に』君嶋彼方×『俺ではない炎上』浅倉秋成 

第12回小説 野性時代 新人賞受賞作『君の顔では泣けない』でデビューした君嶋彼方が、待望の第2作『夜がうたた寝してる間に』を発表した。超能力者の高校生たちが織り成す青春小説だ。
昨年刊行の『六人の嘘つきな大学生』が大ヒットとなり、最新作『俺ではない炎上』も話題沸騰中の浅倉秋成さんは、「特殊設定ミステリ」を数多く手掛けてきた。超能力が題材の物語を書いた経験の持ち主である二人には、驚くべき共通点があった……。
共鳴多め、ただし分断アリ、の初対談です。

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同じ年、同じ日に生まれた二人が、小説家となって出会う。君嶋彼方×浅倉秋成 …

■特殊な設定の話を
地に足を着けたかたちで書きたい

――今回の対談は「会いたい作家さんがいる」という君嶋さんのリクエストから始まったと伺っています。

浅倉:生年月日がまったく同じ人と会ってみたかったからですか?(笑)

君嶋:お互い、1989年の11月8日なんですよね。編集者さんからそれを聞いてテンションが上がったのは確かなんですが、浅倉さんは去年の3月に『六人の嘘つきな大学生』を出されたじゃないですか。同い年の作家さんが脚光を浴びているということで、その前から意識していたっていうのはありました。

浅倉:僕は2012年にデビューしたんですが、売れない時期が長かったんですよ。6作目の『六嘘』でようやく日の目を見ることができたんです。そんな人間からしたら、1作目でいきなり脚光を浴びた君嶋さんがうらやましい。

君嶋:それは本当にありがたかったなと思うんですけど、そのぶん2作目のプレッシャーがきついんです。

浅倉:僕みたいな経歴を辿っている人間には分からない悩みだ。でも、大丈夫です。『夜がうたた寝してる間に』、面白かったです!

君嶋:良かったです……。

浅倉:ちゃんと前作の読者層を引っ張ったうえで、新しい景色を見せてくれている作品だなと思ったんですよね。同じ作家さんが書いたものだな、と感じられるというか。具体的に言うと、前作は男の子と女の子の体が入れ替わっちゃう話でしたが、今回は一般の人にはない超能力を身に付けてしまった高校生たちの話です。どちらも、誰も経験したことがない現象を扱っているんですよね。同じことを力量のない作家さんがやっちゃうと、読みながら「いや、こうはならないよ」ってツッコミがボロボロ出てくる。ところが君嶋さんの作品は思考実験としても文章としてもものすごく練られているために、「もしもこういった世界があったとしたら、確かにこうなるかもしれない」と納得できる。それぞれの特殊な設定にまつわる疑問点も、読者より先回りして言及したり解消したりしてくれているから、ストレスなく物語を追うことができるんです。これは筆力だなぁと思いましたね。

君嶋:確かに「特殊な設定の話を、地に足を着けたかたちで書きたい」という思いは前作同様、今回もありました。もともと『夜がうたた寝してる間に』は、そういえば高校生を主人公にした長編って、投稿時代も含めてまだ書いたことがないなぁと思ったところから着想が始まったんです。普通に高校生たちを書くよりも、何か一つ特殊な設定を噛ませたいなとなった時に、超能力を持っている人たちが一般的に認知されている世界だったら面白いかもしれないな、と。

浅倉:気持ちは分かりますね。僕も『六嘘』の前に出した『教室が、ひとりになるまで』は、「特殊設定が1個乗ったら、先人の作品とさほどかぶらないだろう」という発想で書いたものでした。ただ、『教室が、ひとりになるまで』の場合は、ある高校で代々受け継がれる超能力によって巻き起こる事件の話でした。その世界では超能力が、本当に特殊なものだったんです。君嶋さんの作品の超能力は、今ご自身でおっしゃったように、その世界に暮らす人たちにとってはそこまで珍しいものではない。そして、特殊なものが普通に受け入れられている世界の描き方が、べらぼうに巧い。

■タイトルから溢れ出る
ジャンルレスなムード

――『夜がうたた寝してる間に』の主人公は「時間を停止させる」という特殊能力を持つ高校2年生の冴木旭です。旭が約1万人に1人と言われる「特殊能力所持者」であることは周囲にバレているものの、努力と演技によって学校生活にうまく溶け込んでいる。ある日、大量の机が教室の窓から投げ捨てられる事件が起こり、能力者が犯人ではないかと疑われます。旭が通う高校には他に2人の能力者がいます。その2人の犯行ではないとするならば……と、旭は真犯人を探すために奔走し始めます。前作とは異なり、明確なミステリ要素が入っていますね。

君嶋:若干、入っています。超能力を持ってしまったことで、周りから白い目で見られたりしている人たちの話を書こうと考えた時に、自分たちの存在に関わる事件が起きた方がそういう部分を表現しやすいかなと思ったんです。でも、浅倉さんを前にしてこれをミステリと言うのは、おこがましいです(笑)。

浅倉:謎解きが爽やかです。溜めに溜めて「まさか!」って演出をしていたら、出来上がるものが相当変わってしまったと思います。

君嶋:犯人でビックリさせようとは全く思わなかったんです。そこはそんなに深掘りしなくてもいいかな、と。

同じ年、同じ日に生まれた二人が、小説家となって出会う。君嶋彼方×浅倉秋成 ...
同じ年、同じ日に生まれた二人が、小説家となって出会う。君嶋彼方×浅倉秋成 …

浅倉:前作もそうだったんですが、君嶋さんの作品はジャンルレスなんです。正直なところ、ゴリゴリのミステリ、ゴリゴリのSFと言われるものよりも、「これ何なんだろうね。分かんないけど、面白いね」というものの方が僕は好きです。小説という表現ジャンルの自由さを感じると言うか、これが小説の本来の姿だよなと思うんです。

君嶋:確かにジャンルを意識して書いたことは、投稿時代を含めてほとんどないかもしれません。

浅倉:君嶋さんの作品のジャンルレスな感じは、タイトルに表れていると思う。「この小説はどんな話なの? 何のジャンルなの?」ってことが、タイトルからは想像できないじゃないですか。

君嶋:タイトルを付けるのが本当に苦手で、前作は編集者の方が付けてくださったんです。次は絶対自分で考えようと思って、どうにかひねり出したのが『夜がうたた寝してる間に』でした。でも、友人に言われたんですよ。「内容が分かりづらくない?」と。分かりやすさを突き詰めると、ラノベでよくあるような長々と説明的なタイトルになるんだろうなと思うんですが……。

浅倉:『オレが時間を止められる能力を手に入れてしまった件について』みたいなタイトルだったら、受け取るイメージがだいぶ変わっていたでしょうね(笑)。この話には、このタイトルがぴったりだったと思います。

――主人公は夜になると時間を止めて、自分だけが動ける一人きりの世界を満喫する。得をするために能力を使っている感じはあまりないんですよね。周囲にリア充認定された人気者で笑顔を張り付けて生きている、昼の世界のしんどさから離れるために能力を使っている点が、他の超能力ものとは一線を画していると思います。

浅倉:「こういう能力があったら、日常でどういうことがあるかな?」というところに作家のフェティシズムが発揮されると思うんです。冒頭、止まった雨を触るシーンとか素晴らしかったです。あと、これは盲点だったと思ったのは、加齢のエピソードです。時間を止めている間も、その世界で主人公は動けるし意識もあるから、彼だけに時間が流れている。その結果、静かに年齢を重ねていて周囲の同級生たちより老いている。時間を止める能力ってこれまでもフィクションでよく表現されてきましたが、この設定は“お初”なんじゃないかな。

君嶋:そう言っていただけると嬉しいです。この能力について一個一個突き詰めていくとがんじがらめになっちゃうので、デメリットとして加齢があるという点だけ強調して、あとは潔く目をつぶりました(笑)。

浅倉:そのセンスが素晴らしい。その一点を見逃さずに書いたことで、少なくともこのテイストの作品が持つべきリアリティーは担保されたんじゃないかなって気はしますね。

君嶋:主人公の周りにいる特殊能力所持者それぞれの能力や、使い方次第で起こる弊害について、もっとがっつり書き込むやり方もあったと思うんですが、そうすると、それこそSFになりすぎてしまう。それは違うかな、と。実は、もともとこの小説は群像劇だったんです。机を投げる事件が起こるのは同じなんですが、能力者が4人いて、1人ずつ視点が変わっていく形式でした。その原稿を編集さんに読んでいただいたところ、ちょっと長いよねって話になり、主人公一人の視点に絞ることにしたんです。相当短くなりました。

浅倉:一度原稿にしたものを、がっつり削ったわけですか。それはなかなかひどいことをする方がいらっしゃいますね(笑)。でも、群像劇として一度最後まで書いたことによって理解が深まったから、ここは描写を減らしても大丈夫だと思えるようになったりしたのかもしれない。

君嶋:そう思います。あと、最初の原稿では、フワッとした気持ち悪い終わり方だったんです。「視点を1本に絞りましょう」となった時に、今のラストがパッと浮かんだんですよね。

浅倉:あのラスト、本当に素晴らしかったです。

■二人の間に分断、勃発
気になる次回作は?

――浅倉さんは『六人の嘘つきな大学生』以前の作品には全て、特殊設定が導入されていました。デビュー作の『ノワール・レヴナント』や第2作『フラッガーの方程式』、そして本格ミステリ大賞&日本推理作家協会賞Wノミネートの出世作『教室が、ひとりになるまで』は超能力もののミステリです。超能力もののキモはどんな能力を創造するかだと思うんですが、実際どのように発想していかれたんですか?

浅倉:僕は超能力もの、特殊能力ものを深夜アニメやら漫画やらでいっぱい浴びてきたんです。中でも震えたのは『コードギアス 反逆のルルーシュ』で、人に1回だけ言うことをきかせられる能力なんですよね。それで国を取る、という話なんです。新しい能力を発明するって、オシャレやなぁと思ったんですよ。それで『ノワール・レヴナント』というデビュー作では、背中に幸福の偏差値が見えるといった、他では見たことない能力を4人分作ったんです。ただ『教室が、ひとりになるまで』の時は、新しい能力すぎると説明に時間がかかるし話が複雑になりがちなので、それなりに普遍的なものにしようかなと考えを改めました。

同じ年、同じ日に生まれた二人が、小説家となって出会う。君嶋彼方×浅倉秋成 ...
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君嶋:僕の場合は、今回の小説で書きたいものは超能力そのものではなく、そういった能力を持ってしまった人たちの葛藤だったので、であればちょっと変わった能力を出すよりは分かりやすいものの方が、読者さんにとっても入りやすいんじゃないかな、と。時間が止められる、心が読めるといった、よくある超能力をあえて選びました。

浅倉:ひょっとしたらと思うのは、僕らの世代って『ONE PIECE』があったり『HUNTER×HUNTER』があったり、それこそ深夜アニメでは超能力やら異能力ものは鉄板ジャンルで、そういった能力が出てくる物語に対しての耐性ができている。だから、自分が小説を書く時も、「ミステリに特殊設定を入れた」感覚はないんですよ。「特殊設定のある物語にミステリを入れた」感覚なんです。物語の中に超能力が出てくるのは当たり前でしょう、みたいな感覚ってありませんか?

君嶋:うーん、ないですね(笑)。

浅倉:えっ!?(笑)

君嶋:申し訳ない(笑)。話合わせればよかったですかね(笑)。

浅倉:いやいやいや、嘘が一番いけないんです。嘘が一番いけないです。

君嶋:もともと特殊設定を書くタイプじゃなかったんです。普通の話というとヘンですけど、「現実に起こり得るかな」という話を投稿時代はずっと書いていたので、僕としてはこの2作が特別なんですよね。

浅倉:うかつなことは言いづらくなったんですが(笑)、今回の作品における能力者って、能力が障害に近いというか、限りなくハンディキャッパーに近い。そこがテーマの一つにはなっているんだけれども、現代におけるハンディキャッパーたちに対して寄り添うようなものを書こう、という考え方ではなさそうな気がするんです。

君嶋:そうですね。前作もそうだったんですが、特殊な設定を元に書いていくうちに、副産物みたいにテーマが出てくる。その一つが、浅倉さんに今おっしゃっていただいたことだったりするのかなと思います。

浅倉:僕も同じです。設定からスタートしてお話を作り上げていくうちに、副産物のようにテーマが出てくる。そういう順番でやっているからこそ、押しつけがましさなしにスルスル読めるし、その過程でテーマ的なものもすんなり染み込んでいくんじゃないかなぁと思っています。

君嶋:ただ、これまでは先に設定ありきだったんですが、次はテーマ先行でやってみたいなと思っているんです。普段の生活の中から出てきた書きたいテーマがあって、それは……(密談)。

浅倉:面白そう! なおかつ、それは君嶋さんが書くべきテーマですね。楽しみです。

君嶋:浅倉さんの次の長編は、どんな内容なんですか?

浅倉:おそらく次は家族ものになるかな、と思っています。物語の骨格は一応、見えていますね。見えてはいますが、1文字も書いてないです!

君嶋:楽しみにしています(笑)。今日は本当に楽しくて、たまたま同じ日に生まれた「だけ」といえばそうなんですが、そうでなければこの対談もなかったかもしれないと思うと、この偶然には感謝すべきですね。ありがとうございました!

同じ年、同じ日に生まれた二人が、小説家となって出会う。君嶋彼方×浅倉秋成 ...
同じ年、同じ日に生まれた二人が、小説家となって出会う。君嶋彼方×浅倉秋成 …

■プロフィール

■君嶋彼方(きみじま かなた)

1989年生まれ。東京都出身。「水平線は回転する」で2021年、第12回小説 野性時代 新人賞を受賞。同作を改題した『君の顔では泣けない』でデビュー。

▼君嶋彼方 特設サイトはこちら
https://kadobun.jp/special/kimijima-kanata/

■『夜がうたた寝してる間に』(KADOKAWA)

定価1,650円(税込)
定価1,650円(税込)

書誌ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322204000318/

▼『夜がうたた寝してる間に』大ボリューム試し読み
https://kadobun.jp/trial/yorugautataneshiterumani/adra17xps6os.html

■浅倉秋成(あさくら あきなり)

1989年生まれ。関東在住。2012年、第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞した『ノワール・レヴナント』でデビュー。2019年に刊行した『教室が、ひとりになるまで』が第20回本格ミステリ大賞と、第73回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門にWノミネート。21年刊行の『六人の噓つきな大学生』は、4つの主要年間ミステリ・ランキングすべてにランクインし、第12回山田風太郎賞候補、2022年本屋大賞にノミネート、「ブランチBOOK大賞2021」大賞(『王様のブランチ』TBS系毎週土曜あさ9時30分より生放送)を受賞。その他の著書に『フラッガーの方程式』『失恋の準備をお願いします』『九度目の十八歳を迎えた君と』など。現在、集英社「ジャンプSQ.」にて、原作をつとめる「ショーハショーテン!」(漫画:小畑健)を連載中。

▼浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』特設サイト
https://kadobun.jp/special/asakura-akinari/rokunin/

■『俺ではない炎上』(双葉社)

書誌ページ:https://www.futabasha.co.jp/introduction/2022/oredehanai_enjo/index.html

KADOKAWA カドブン
2022年09月05日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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