『国鉄 「日本最大の企業」の栄光と崩壊』石井幸孝著

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国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊

『国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊』

著者
石井 幸孝 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784121027146
発売日
2022/08/22
価格
1,210円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『国鉄 「日本最大の企業」の栄光と崩壊』石井幸孝著

[レビュアー] 寺田理恵(産経新聞社)

■有事は貨物 国境4線守れ

北の大地を駆け抜ける旅客列車。車窓からの眺めは大湿原や雪の原野の一大パノラマ。警笛が聞こえたら外を見よう。野生動物が近くにいるはず。外が氷点下でも車内は暖かく、大抵すいていて快適だ。ただ、突然の暴風雪やエゾシカとの衝突も起こり得るので旅程には余裕を。

日本の食料基地・北海道では、鉄道はタマネギやジャガイモなどの農産物を本州へ送る長距離・大量輸送も担っている。その鉄路が存続の危機にある。

長い赤字路線を抱えるJR北海道は平成28年、営業路線の半分を同社「単独では維持困難」と表明、廃線が相次いでいるのだ。人口密度が低い上、厳しい自然条件下での線路維持は困難で、除雪費用もかかる。だが鉄道貨物からトラック輸送へ切り替えるには、長距離ドライバーの人数確保が課題となる。

本書はJR北にとどまらず、鉄道貨物の問題を全国的課題として提起し、新幹線物流の可能性も論じている。戦後の国鉄の衰退を貨物の観点からも捉え、歴史に学ぶ内容となっている。

本書によると、日本は「旅客鉄道大国」でありながら「貨物鉄道小国」でもある。どこの国も「平時旅客」「有事貨物」で、平時は旅客需要が優先。だが鉄道は軍事力でもあり、戦争時は兵器や軍用資材を輸送する。有事にはパンデミックや災害も含まれる。鉄道を含めた物流の能力を平時も保持しなければ、強い国にならないという。

著者は国境に面した「北方4線」約1200キロを国策上から廃線にしてはならず、線路設備維持費を国が負担すべきだと主張する。4線はJR北が単独で維持困難とする石北本線など。沿線は食料供給地でもある。

なぜ民営化後もうまくいかない面があるか。著者は一因として、車や航空機、船舶では輸送業者が道路・空港・港湾の経営責任を負わない一方、国鉄が線路整備も担った点を指摘する。

民営化当時、JR北は基金の運用益で赤字の鉄道事業と収支均衡を図る計画だったが、低金利で経営難に陥った。海岸沿いを走っていた日高線116キロは27年の高波被害で営業を休止、復旧や海岸浸食対策ができず昨年に廃線となっている。著者はJR九州初代社長。鉄道会社側の立場だが、一読の価値がある。(中公新書・1210円)

産経新聞
2022年9月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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