極限状態で何故、犯人探し? 女性バディ×エンタメ×ミステリー

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

此の世の果ての殺人

『此の世の果ての殺人』

著者
荒木 あかね [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065289204
発売日
2022/08/24
価格
1,815円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

極限状態で何故、犯人探し? 女性バディ×エンタメ×ミステリー

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 今年の江戸川乱歩賞作品。帯の惹句を借りれば、乱歩賞「史上最年少、満場一致」、まさに鳴り物入りの受賞だ。昨年も正統派の警察小説と中国風武侠ミステリーの二作受賞で話題を呼んだ同賞だが、それをも超えるはしゃぎぶりではないか。

 いやしかし、実際中身も凄いのであった。二〇二二年も押し詰まった一二月三〇日、小春は太宰府自動車学校のイサガワ先生と二人、路上教習に出る。彼女はお喋りなイサガワが苦手だが、先生は人の家庭事情にも平気で首を突っ込んでくる。小春の父は一昨日自殺していた。不穏な空気は教習先の北谷ダムにも立ち込めていた。何と車に男が落ちてきたのだ。大木で首を括った死体。近くの林ではさらに数十人もの死体が……。

 何とも異様な出だしだが、程なく翌年三月に小惑星テロスが阿蘇に衝突、日本はもとより世界が壊滅的被害を受けることが明らかになる。それが公表されて以来、日本は騒乱状態に陥った。国外脱出者や自殺者が後を絶たず、今や九州に残る人はほとんどいない。小春の家も母が失踪、父も死に、今や一七歳の弟セイゴとの二人だけになった。

 翌日、教習所に向かった小春を待ち受けていたのは教習車のトランクに押し込まれていた女の惨殺死体だった。小春は何故か犯人逮捕に燃えるイサガワとともに警察に赴き、そこでイサガワのかつての後輩でキャリア警官の市村から、博多や糸島でも同様の他殺体が発見されていることを知らされる。

 小惑星衝突を目前にした世界という背景設定は珍しくないが、それを基に謎深い連続猟奇殺人事件の捜査が繰り広げられるとなると話は別。しかも調べて回るのが変わり者の自動車学校の女教官とその教え子となればなおさらだ。著者は事件の捜査と様々な人々の出会いをリンクさせ、極限状況下のドラマをスリリングに描き切ってみせた。「『大新人時代』の本命!」に偽りなしの傑作だ。

新潮社 週刊新潮
2022年9月15日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク