労働経済学の研究者が「お酒」を深掘り

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お酒はこれからどうなるか

『お酒はこれからどうなるか』

著者
都留 康 [著]
出版社
平凡社
ジャンル
工学工業/その他の工業
ISBN
9784582860092
発売日
2022/08/16
価格
990円(税込)

書籍情報:openBD

労働経済学の研究者が「お酒」を深掘り

[レビュアー] 林操(コラムニスト)

 酒――には誰もが一家言あるゆえ、酒を語る本は星の数ほどあって玉石混淆、しかも石の方が多め。では、労働経済学が専門の一橋大学名誉教授による酒の書はどうか。

 この問いへの答え、ワタシは読む前から持ってました。同じ著者が2年前に出した『お酒の経済学』(中公新書)が、酒読本としてもビジネス書としても見事な玉だったんでね。あの本の終章は確か、「日本のお酒はこれからどうなるか」。まさにそこを探究追究した続編が今回登場したわけだから、外れはない。

 全8章のうち前半4章は日本酒、日本ワイン、梅酒、日本のジンと酒そのものがテーマで(ビールやウィスキーについては『お酒の経済学』の方をどうぞ)、一方、後半4章は家飲み、居酒屋、酒造所併設の飲食店、ノンアルコールなど呑み方・呑ませ方の分析という構成。ビジネス書としての読みどころが多めなのは前半で、特に日本酒生産への新規参入を禁止してきた国策の馬鹿さ加減と、手枷足枷に逆らって新しい酒、売れる酒を生み出してきた起業家・醸造家の取り組みの数々は濃い。読めば落胆憤怒と高揚快感とが交互に襲ってくるジェットコースター体験、池井戸潤・真山仁系の経済小説の凝縮版のようです。

 一方、酒読本としての読みどころも後半を中心に多数。自宅で連夜、客も招かず酌む晩酌や、酒から飯までをひとつの店の同じ席で楽しめる居酒屋はニッポン特有という指摘は面白いし、海外では食前・食後酒である蒸留酒に水やソーダを混ぜて食中酒に変えることもまた、この国の発明だと知らされれば、「ブランデー、水で割ったらアメリカン」なんて古いCMが脳内で再生される。ついでに当時の冗談(石油で割ったらアラビアン)まで思い出せば、こんなツッコミまで入れざるをえない、「ジャパニーズだったんじゃん」。

 え? お酒はこれからどうなるかって? この本をお読みください。

新潮社 週刊新潮
2022年9月15日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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