『なぜ「星図」が開いていたか』
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チームメイトと60年前の松本清張と「没後30年」と
[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「星座」です
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私は中学を卒業するまで一冊の本も読んだことがない。そんなものを読む暇があったら、草野球に興じていたほうが楽しかった。昭和35年前後の東京には、子供たちだけで参加できる少年野球(リトルリーグとは違うもので、少年たちの草野球だった)があり、私たちは毎年目白警察の少年課に出場届を提出した。たぶん非行防止という建前があったのだと思う。出場資格は中学三年まで。いつも東長崎にあった立教大学のグラウンドに忍び込んで練習していたが、翌月から高校に進学するという最後の練習の帰りに、チームメイトが小説の話をした。同級生の推薦なら手にとらなかったかもしれない。しかしチームメイトに対しては信頼というものがある。
お前の家の近所に貸本屋があるはずだから行ってごらん、借りることができるよ、と彼に言われた。そうして読んだのが、松本清張『点と線』だ。びっくりした。小説って面白いじゃないか。それが私の、すべての読書の始まりである。
折よく、松本清張『なぜ「星図」が開いていたか 初期ミステリ傑作集』が出たので、読んでみた。表題作は心臓麻痺で突然死した教員の机に百科事典があり、その開かれたページにあった「星図」の項の意味を探る短編である。『松本清張推理評論集 1957~1988』(中央公論新社)もつい購入してしまったが、そうか、「没後30年」だったのか、と初めて『点と線』を読んだ60年前のことを思い出すのである。