『絵巻で読む方丈記』鴨長明著/田中幸江訳注(東京美術)

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絵巻で読む方丈記

『絵巻で読む方丈記』

著者
鴨長明 [著]/田中幸江 [著]
出版社
東京美術
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784808712501
発売日
2022/06/24
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

『絵巻で読む方丈記』鴨長明著/田中幸江訳注(東京美術)

[レビュアー] 梅内美華子(歌人)

 たなびき飛んでいるのは都で起きた大火の炎。屋根を半分以上覆う火の下を前のめりになって逃げる人、家財を背負う人、振り返る人でごった返す通り。朱雀門や大極殿をはじめ公家屋敷16軒が焼け、数千人と家畜類も死んだ。

 鴨長明の『方丈記』には平安末期の「五大災厄(大火、辻風(つじかぜ)、遷都、飢饉(ききん)、地震)」が記されている。それを絵に描いた『方丈記絵巻』にはいつの世も変わらぬ恐怖と絶望の姿があり、無力さを伝える。

 『方丈記』の絵巻があることはあまり知られていない。本書が取り上げるのは江戸時代に作成された唯一のもので、『方丈記』の流布を推察できる貴重な一巻である。

 災害の様子を他者の目で描写した長明は、辻風について「家の中の宝、数を尽くして空に上がり」「地獄の業風」と記す。絵画化に十分なデテールを提供しているのだ。変転無常が続く現代に通じる記述が少なくない。小さく描かれた人間は私たちである。

読売新聞
2022年9月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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