『地魚の文化誌 魚食をめぐる人の営み』太田雅士著(創元社)

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地魚の文化誌

『地魚の文化誌』

著者
太田 雅士 [著]
出版社
創元社
ジャンル
芸術・生活/家事
ISBN
9784422740348
発売日
2022/05/26
価格
2,750円(税込)

書籍情報:openBD

『地魚の文化誌 魚食をめぐる人の営み』太田雅士著(創元社)

[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)

瀬戸内の魚 プロの視点

 私たちはおいしい魚の種類をどのくらい挙げられるだろうか。魚のほかエビやタコ、貝、海藻など魚介類が獲(と)られ流通する過程にどのような人々が関わっているのか知っているだろうか。大阪の卸売市場などで長年魚介類の仕入れや販売に携わってきた著者は本書で、瀬戸内海東部(大阪湾や播磨灘)を中心に獲れる魚介類(地魚(じざかな))とそれをめぐる人々の営みを多面的に、かつ深く教えてくれる。

 関西の食文化を語るうえで欠かせないハモやフグ、タコなどに加え、クロダイ(チヌ)、エソ、イボダイ(ウオゼ)、イカナゴ、アカエイ、クマエビ(アシアカエビ)、タイラギ…本書で紹介される数々の地魚とそのおいしい食べ方(煮つけ、天ぷら、干物、吸い物など)は本当に魅力的である。多くの川から供給される栄養分が海峡部の強い海流で混合され、生物生産性の高い瀬戸内海は「天然のいけす」であり、味の良い様々な地魚が豊富に獲れ、古くから食べられてきた。海の地形や環境、生息魚種に応じて漁法もさまざまである。産地から直接、顧客に質の良い魚介類を届ける行商や仲買人の人たちの活気も生き生きと描かれている。地魚を獲り、売り、消費することは文化そのものであることがよくわかる。

 一方、瀬戸内海では戦後の埋め立てや海砂採取により魚介類の生息場所や産卵場所が減少した。また富栄養化に伴う赤潮被害への対策から逆に貧栄養化が進み、近年の水温上昇もあり漁獲量は落ち込んでおり、資源管理が必要となっている。スーパーマーケットや大手飲食チェーンが海外など遠方から規格化された魚介類の大量調達を進めたことや、調理の手間を嫌う消費者の魚離れにより、多種多様な地魚が忘れられつつある現状も同時に指摘されている。

 環境だけでなく豊かな文化を守ることにもつながる地魚の保護と消費の復権には、まずは地魚のおいしさが広く知られることが必要だが、本書の最後には地魚の魅力を知ることのできる市場や施設も多く紹介されている。読めば地魚を食べたくなることは間違いない良書である。

読売新聞
2022年9月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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