『トマトソースはまだ煮えている。 重要参考人が語るアメリカン・ギャング・カルチャー』HEAPS編集部著(左右社)

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トマトソースはまだ煮えている。

『トマトソースはまだ煮えている。』

出版社
左右社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784865280760
発売日
2022/05/25
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

『トマトソースはまだ煮えている。 重要参考人が語るアメリカン・ギャング・カルチャー』HEAPS編集部著(左右社)

[レビュアー] 川添愛(言語学者・作家)

米ギャングが愛した味

 タイトルを見て、グルメ本かと思う人もいるかもしれない。実際は、ウェブマガジンHEAPSの編集部が、ニューヨークのギャング博物館館長に聞いた話をもとに、アメリカン・ギャングにまつわる数々のエピソードをまとめたものだ。しかしグルメ本以上に、食欲をかき立てる本であることは間違いない。

 とにかく食べ物の話が秀逸だ。映画『グッドフェローズ』の主人公にもなったヘンリー・ヒルは、招待された席で出てきたスパゲッティが気に入らず、自ら厨房(ちゅうぼう)に入ってトマトソース(彼らの正式な呼び方は「トマトグレービー」)から作り直したという。また別のギャングは、刑務所での食事に耐えられず、料理上手な女ギャングを厨房に潜り込ませ、独房で美味(おい)しいイタリア料理を堪能していたらしい。こんな話を読んでいると、口がトマトソース(いや、グレービー)の味を求め始める。私はとりあえずトマトジュースを飲んでその場を凌(しの)いだ。

 さらに気になるのが、ギャングに愛されているというお菓子、カンノーリだ。カリカリの生地にリコッタチーズをサンドした、すごく甘いお菓子らしい。マフィアの食事にお呼ばれしたとき、これを持っていけば間違いないという。

 食べ物の話以外にも、禁酒法時代のギャングの酒場が男女が平等に酒を飲む場を作ったとか、ギャングたちが追っ手から逃れるために車を改造したことがナスカーという改造車レースにつながったなどといった、面白い話が目白押しだ。ギャングの文化がいかにアメリカ文化に影響を及ぼしているかが分かるし、今後ギャング映画を見るときにいっそう楽しめそうだ。

 ちなみに私は、前述のカンノーリをどうしても食べてみたくて、売っている店を調べ、電車を乗り継ぎ、猛暑の中を歩いて買いに行った。しかし、店は夏季休業中。そして今もまだ、食べることができないでいる。私の中の「カンノーリ食べたい欲」はまだ煮えている。

読売新聞
2022年9月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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