<書評>『日清・日露戦史の真実 『坂の上の雲』と日本人の歴史観』渡辺延志(のぶゆき)著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日清・日露戦史の真実

『日清・日露戦史の真実』

著者
渡辺 延志 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784480017505
発売日
2022/07/15
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『日清・日露戦史の真実 『坂の上の雲』と日本人の歴史観』渡辺延志(のぶゆき)著

[レビュアー] 原田敬一(佛教大学名誉教授)

◆参謀本部のフェイク追究

 戦争とフェイクニュースは連動すると、ウクライナ戦争によって広く知られるようになったが、戦後日本でも「大本営発表」というジョークが長くつかわれた。自分に有利な大げさな発言をいった。本書は、日清戦争と日露戦争の戦史といういわば「参謀本部発表」のフェイクを、丹念に追究したといえよう。

 参謀本部が十年間かけてまとめ公刊した『日清戦史』全八巻に対して、その草稿類が歴史学者の大谷正氏や中塚明氏によって発見されたのは、一九九四年。中塚氏も複数の著書で、草稿による新事実を解明されたが、それらを踏まえて日清戦争の全体像や、戦前日本の歴史像にも迫ろうというのが本書の狙いである。

 戦史は、戦争を担当する部門(参謀本部や海軍軍令部、陸海軍省)が次の戦争の教訓を得るために必須の材料であり、以後の士官学校教育などで頻繁に使われる。同時に国民に戦争像を示し、国民教育に資する。このバランスが重要だが、日本はそれに失敗し、いわば国民に良い面だけを見せるものに変更した。

 日清戦争後、参謀本部は、当初「忌憚(きたん)なく事実の真相を直筆し」、批評も加えた「草案」を数度練り直したが、最終的には、「我が政府常に平和と終始せんとせしも、清廷は我が国の利権を顧みず」日本はやむなく応戦した、という筋に沿う記述に変更され、公にされた。本書では、一八九四年七月二十三日の朝鮮王宮占領、第五師団の釜山上陸の混乱、豊島(ほうとう)沖海戦など二つの戦史を比較して丁寧に解き明かしている。草案を改竄(かいざん)したものが公刊『日清戦史』だった。

 日清戦争で真実と異なる戦史を刊行した参謀本部は、『日露戦史』編纂(へんさん)にあたっては最初から、部隊や司令部の意見対立や兵站(へいたん)輸送の遅れや影響、国際法違反や中立違反の事実などを書くなという「注意」を与えていた。

 戦前日本人の戦争観、さらに歴史観は、こうしたフェイクによって創られたものだった。果たして私たちはそれから自由になっているのだろうか。百二十年前の出来事の再発掘からも、鋭い問いかけが投げられている。

(筑摩選書・1760円)

1955年生まれ。ジャーナリスト。『歴史認識 日韓の溝』『関東大震災「虐殺否定」の真相』。

◆もう1冊 

大谷正著『兵士と軍夫の日清戦争』(有志舎)。戦地からの手紙が伝える肉声。

中日新聞 東京新聞
2022年9月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加