学生時代に出会った友 幸せを共有する関係は生涯続く
[レビュアー] 伊藤氏貴(明治大学文学部准教授、文芸評論家)
クラスメートが生涯の友となるというのは、よくあるようでいて、実は不思議なことではないだろうか。自分には何の選択の余地もなく、無理矢理一年間押し込められた箱の中の出会いが、互いの一生を左右しさえする関係になる。学校を出た後の、自分で選んで築いた関係の方が、総じてそれよりずっと脆かったりする。
本書の四人の少女は、中高一貫の女子校で十三歳のときに出会った。一九五八年のことだ。アメリカへの留学経験があり、自立を促す女子教育に熱心な副校長の薫陶を素直に受けた四人は、卒業後にそれぞれの人生に踏み出していく。
ラジオ局や信用金庫に勤める者、研究者、渡米してジャズシンガーを目指す者とまちまちで、恋愛や家庭に関しても異なる選択をするが、それでも四人の関係が切れることはない。その後の四人の人生と、そして四人で過ごした学校時代の思い出とが互い違いに描かれ、絡み合う四つの物語が立体的に立ち上がる。
幸せな結婚生活を送る者もいれば、DVに苦しむ者、事実婚を選ぶ者、また子どものいる者もいない者もいる。もちろんこれで戦後の女性の生き方のすべてを網羅したわけではないが、自分の人生の主人公たるべく生きるさまざまな姿が映し出される。
ここには社会や時代の問題も関わるが、それが何であれ、四人を支えたのは、好きな時に参照できる思い出だ。彼女たちはそれぞれの物語の主人公でありつつ、ただ自分一人の物語の現在をのみ生きるのでなく、折に触れて四人に共有された過去を思い出す。それがこの小説が時系列で書かれていないことの意味である。
そしてさらに幸せなのは、この四人の関係が参照すべき過去に終わらず、その後も続いたことだ。別々に生きていても、ほんとうに苦しい時に助けを求め、それに対して手を差し伸べることのできる、無償の関係。それを築けるのは学生時代にしかありえないことなのかもしれない。