断言する! 全人類が読んで損はない

レビュー

6
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これからの時代を生き抜くための文化人類学入門

『これからの時代を生き抜くための文化人類学入門』

著者
奥野克巳 [著]
出版社
辰巳出版
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784777828739
発売日
2022/06/21
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

断言する! 全人類が読んで損はない

[レビュアー] 角幡唯介(探検家・ノンフィクション作家)

 タイトルを額面通りにうけとると特定の学問の入門書だが、中身はもっと広く、深い射程で書かれている。

 文化人類学とは何を学ぶ学問なのか。要はそれがキモなのだが、ひと言でまとめると人間の生き方の根源を探る試みだというのが、その答えになる。文化人類学といわれれば誰しも自分には関係ないと思うが、人間の生き方の根源だといわれると、すべての人に関係がある。だから本書は全人類が読んで損はない。

 読後感としては若者に向けた著作であり、せまい常識の殻に閉じこもり、自分の価値観が普遍的で絶対だと思いこまないほうがいい、というメッセージは明快だ。

 本書には世界各地の辺境にすむ様々な民族の、一風変わった習俗や文化が述べられている。モノの所有の放棄が徳となる文化もあれば、年齢によって同性愛者から異性愛者にかわる文化もある。つまり人間は所有、性、時間の感覚といった根本的なことさえ環境の制約を受けており、生活習慣や文化は相対的なものにすぎない。私は今、〈一風変わった〉と書いたが、森の狩猟民から見たら私たちの行動や価値観こそ一風変わっており、非合理的なのだ。それを自覚しないと思考は偏狭になり精神は独善に陥り、他者を排撃する遠因にもなるだろう。文化を超えた人間を人間たらしめる基盤、われわれはどこから来たのか、何者なのか、どこへ行くのか、それを知ることがこの学問の根幹にある。

 とはいえ、すべての人が文化人類学者になるわけにもいくまい。それよりもっと簡単な方法がある。それは旅をすることだ。その意味で世界放浪をするために脱サラし、気づくと学者になっていたという自己の経験を記した最終章こそ一番言いたいことかもしれない。文化人類学とは他者を知るための旅だ。異文化との出会いと衝撃がいかに人生を変容させ、人格の中核となるか。流転こそ人生の本質。強く同意する。

新潮社 週刊新潮
2022年9月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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