『ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえりお母さん』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
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『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』
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自分たちに合った介護のスタイルを探す家族再生の記録
[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)
タイトルを読むだけで泣き笑いの顔になってしまう、信友直子『ぼけますから、よろしくお願いします。』。
著者はテレビディレクター。認知症になった80代の母と、老老介護する90代の父を撮影したドキュメンタリーはシリーズ化され、映画にもなっている。
優しくユーモアのある母は主婦としても完璧だったが、認知症が進むにつれ、それまでできていたことができなくなっていく。そんな妻を、高齢の父が献身的に支える。下着を洗ったり、縫い物をしたり、介護に備えて筋トレを始めたり。嫌な顔もせず愚痴もこぼさず、飄々とした姿がカッコいい。
両親にカメラを向けることになった経緯や、母を撮影することへのためらい。娘である自分は母の変貌をどう感じたか、東京から広島の実家に帰ったほうがいいのかといった感情の揺れも、率直につづられる。
夢をあきらめたことのある父は、自分ができなかったぶん、娘にはやりたいことをやらせたいと願っていた。家族は、ケアマネジャーやヘルパーといったプロの手も借り、自分たちに合った介護のスタイルを見つけていく。そうすることで、閉ざされていた家族は再び外へ開かれることになった。
私小説でもあり長篇詩でもある、伊藤比呂美『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』(講談社文芸文庫)は、両親のいる熊本と、親子ほど年の離れた夫と暮らすカリフォルニアとを、まだ小学生の末娘を連れて右往左往する「わたし」の姿を描いて読ませる。
語りの文芸である説経節を現代に蘇らせる試みでもあり、死者生者、さまざまな声が響き出す。説経節とは女がひたすら苦労するものらしく、親の病気、夫の病気、自身の病気、娘の不調など著者の身にも次から次へと苦難が降りかかる。
日米往復は次第に頻繁になりおのずと緊張が高まるが、この道行きの先にあるのは心中ではない。浄瑠璃などと違って、説経節の道行きは生き延びるための道行きなのだそう。巣鴨の地蔵のおかげもあるのか、刺さったとげもいつしかポロポロと抜けていく。