『エリザベス女王』
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最後の大君主の知られざる“実力”
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
エンペラーといえばヒロヒト、クイーンといえばエリザベス。ではキングといえば?―この問いへの答えがコングだというジョークを見たか聞いたかしたのは、もうン十年も前のこと。
二度の大戦で王政帝政が衰退し果て、世界に名を知られる王帝が激減したゆえの笑話ですが、昭和天皇が敗戦の後、元首から象徴に変じた一方、エリザベス2世は内政や外交に影響を及ぼす君主であり続けた。
大国を導く最後の統治者だった女王の、日本語で読める最新の評伝が、英政治外交史の研究者である君塚直隆の『エリザベス女王』。上梓が2020年の2月だから、EU離脱からハリー王子の王室離脱までがカバーされ、漏れてるのは夫君の死と在位70周年くらい。追悼報道を見聞きしながら読み返してみても尻切れトンボ感はなく、むしろ再発見だらけでした。
なかでも圧巻なのは、外交で果たした役割の大きさ。大英帝国の終焉期だった若き女王のころは、その存在を“使いこなす”英国の政治のしたたかさが印象的だし、経験豊かな女王となってからの当人が時々の政権とわたりあう姿もまた、いわゆる王室皇室外交の域をはるかに超えてます。
英国以外の14か国の女王と英連邦の首長も兼ねる彼女が、アパルトヘイトの撤廃に消極的なサッチャーを牽制するために他国の首相と協力するなんてあたり、これ映画になると確信したし、国葬で弔問外交をとかヌカしてるニッポンとの彼我の差にも泣きました。