『産業の新世界 (原題)Le nouveau monde industriel et socie´taire』シャルル・フーリエ著(作品社)

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産業の新世界

『産業の新世界』

著者
シャルル・フーリエ [著]/福島知己 [訳]
出版社
作品社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784861828973
発売日
2022/05/31
価格
8,580円(税込)

書籍情報:openBD

『産業の新世界 (原題)Le nouveau monde industriel et socie´taire』シャルル・フーリエ著(作品社)

[レビュアー] 中島隆博(哲学者・東京大教授)

「農」中心 二世紀前の理想郷

 理想の社会をどう構想するのか。二世紀前にこの問いに挑んだひとりがシャルル・フーリエである。

 フーリエが注目するのは人間の情念である。フーリエは当時の「道徳学」を、情念を抑圧するものとして厳しく批判する。そして、ニュートンの万有引力に倣って作った「情念引力」という聞き慣れない概念を用いて、五感を満足させ、感情的絆に基づいたアソシアシオンという共同体を目指した。

 それは農業を中心とした一八〇〇人規模の共同体で、その構成員は日々様々に異なる労働や交遊に参加することで、情念を飽きさせることがない。

 フーリエが念頭に置いていたのは、過酷な労働状況と不衛生そして貧困にあえぐ庶民を生み出す「文明世界」で、それを「人類が形成しうる産業的な諸社会のうちで最も卑しい社会」だと断言する。そしてその中心にある商業を批判し、その職務を農場の側に回収し、商業従事者を農業に戻すことを提案する。当時勃興していた商業資本に憤り困惑する様子が見て取れる。

 フーリエの理想社会論で興味深いのは、ある程度踏み込んだ男女平等を唱えていたことと、環境問題に注目していた点である。小さな子どもの時には衣裳(いしょう)による男女の区別を避けることと、職業においても「自然が望むのは(男女を)さまざまに混ぜ合わすことである」として、「少なくとも八分の一は異性が占める」べきだと述べる。

 また、「文明世界」のままでは、「数百年を過ぎると、産業が無秩序化されているために森林は破壊され、水源は枯れ、暴風雨とあらゆる環境的過剰が煽(あお)りたてられる」とも言う。今日的な課題にまでその構想力は及んでいたのである。

 マルクスとエンゲルスによって「ユートピア社会主義」と呼ばれたフーリエだが、生誕二五〇周年を記念して刊行された初版完訳版であるこの書はわたしたちに、「ではあなたたちはユートピアをどう構想するのか」と問いかけているかのようだ。福島知己訳。

読売新聞
2022年9月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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