『人生は甘美である 谷丹三作品集』谷丹三著(幻戯書房)

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人生は甘美である

『人生は甘美である』

著者
谷丹三 [著]
出版社
幻戯書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784864882491
発売日
2022/05/25
価格
7,480円(税込)

書籍情報:openBD

『人生は甘美である 谷丹三作品集』谷丹三著(幻戯書房)

[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大准教授)

 谷丹三という小説家をご存じだろうか。

 1909年生まれ、旧制浦和中学から東大仏文に進んだ。小説家の牧野信一に師事し、坂口安吾や中原中也とも親交をもち、埴谷雄高らが主宰した「近代文学」にも作品を発表している。

 新宿で飲み屋を営みながら小説を書き、50歳を過ぎて私立大学の仏語教師となるものの、その後渡仏し、帰国したあと亡くなった。不幸にも発表した小説が本になることはなかった。だから、知っている方はよほどの文学通だ。

 博覧強記で知られた独文学者の種村季弘氏はかねて谷の作品に注目しており、小説集の刊行を目論(もくろ)んでいたそうだが、果たせず亡くなられた。種村氏の薫陶を受けた齋藤靖朗氏がその後精力的に谷作品を発掘し、ようやく上梓(じょうし)されたのが本書である。16篇(へん)の小説に加え、安吾と埴谷の文章も収められている。

 種村氏が注目した「脱がし屋」なる短篇は、女体をとことんまで見つめ描写し尽くす。そのさまは官能を超え解剖学に近づく。しかもその先にはアッと驚く結末が。牧野信一も顔負けの幻想世界が広がる。

読売新聞
2022年9月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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