『陸奥と渡島』
- 著者
- 吉村, 武彦, 1945- /川尻, 秋生, 1961- /松木, 武彦, 1961-
- 出版社
- KADOKAWA
- ISBN
- 9784047036949
- 価格
- 2,530円(税込)
書籍情報:openBD
<東北の本棚>精神性豊かな蝦夷世界
[レビュアー] 河北新報
「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザインを手掛けたことで知られるアニメーターの安彦良和さんが、本書に少年期のエピソードを寄稿している。安彦さんはサロマ湖にほど近い北海道遠軽町の出身。春耕の時季に、畑で土器や石器を拾うのを楽しみにしていたという。
「遺物は、今にして思うと続縄文期かそれに続く擦文(さつもん)期のものだったのだろう」と、郷土の先人の暮らしに思いをはせる。続縄文期(紀元前3世紀~紀元後7世紀)から擦文期(7世紀~13世紀)を生きたオホーツクの民は、日本列島の北端に逼塞(ひっそく)していたのではない。大陸との交流も盛んだった。縄文人や擦文人とつながりがあるというアイヌ人も、行動力あふれる民だったに違いないと、安彦さんは考える。
本書は研究者6人による6章構成。第1章で東北学院大の熊谷公男名誉教授(日本古代史)は、北上川河口付近から大崎市の北縁を通り、奥羽山脈を越えて最上川河口付近に至る「南北両文化の境界線」の存在を指摘している。「境界線」は南の古墳文化と北の続縄文文化の潮目で、律令国家から見た境界線の北側は、王化に従わぬ蝦夷の世界だった。
境界線の北に特徴的なのは、アイヌ語地名が数多く残ること。第2章を担当する北海道大大学院の高瀬克範教授(考古学)は、津軽海峡を挟んだ交易について、東北地方にも続縄文文化の集団が住み、渡島(わたりのしま)(北海道)と陸奥とをつなぐ物流体制の中に役割を占めていたと述べる。
それが、蝦夷の一面の顔なのだろう。アイヌとの関係性も浮かび上がってくる。安彦さんは「現代人の我々(われわれ)は古代の人々の行動力を甘く見がちである」と書いているが、本書の執筆陣が光を当てる蝦夷の世界は、精神性豊かで実にダイナミックだ。津軽海峡の両岸だけでなく、東アジアの壮大な地図が見えてくる。(村)
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KADOKAWA0570(002)301=2530円。