【漫画漫遊】『BADON』オノ・ナツメ著 4人の男 出所後の人生

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BADON

『BADON』

著者
オノ・ナツメ [著]
出版社
スクウェア・エニックス
ISBN
9784757563193
発売日
2019/09/25
価格
660円(税込)

書籍情報:openBD

【漫画漫遊】『BADON』オノ・ナツメ著 4人の男 出所後の人生

[レビュアー] 本間英士

刑務所で知り合った年齢不詳の男性4人の「第二の人生」を描いた物語だ。カネもコネもろくにない、どん底からの再出発。断ち切りがたい過去の因果を抱えつつ、彼らは新たな夢を追い求める。償いの後も人生は続いていく。往年の名作映画を見ているような気持ちになれる作品である。

舞台は、欧米の大都会を想起させる架空の街「バードン」。恐喝や詐欺などの罪で服役したハート、リコ、ラズ、エルモの4人は出所後、バードンにそろって移り住む。この世界では、煙草(たばこ)は高価な嗜好品(しこうひん)であり、上流階級の象徴でもある。4人はハートの夢でもあった高級煙草店を開店。新天地で自分たちなりの居場所を見つけていく。

4人はいずれもくせ者ぞろい。独特の絵柄からは色気がにじみ、スーツや眼鏡がよく似合う。マフィアのような裏社会の住民も登場するが、基本的には人情味のある人々と品のある紳士が多く登場するため、センスの良い上質な物語を読んでいる安心感がある。

平板な人生を歩まなかった彼らにとって、過去の経験は足かせであると同時に、トラブル発生時には強みにもなる。胆力や話術、嘘を見抜く力を元に危機を打破する描写は痛快だ。ハードボイルド要素を持ちつつも、過度にマッチョな世界観や男尊女卑的な価値観は描かれておらず、現代の読者にも魅力的に映る。

特に読み手の心を打つのは、彼らが近隣住人と少しずつ心を通わせて地域になじんでいき、理想の店を作り上げていく描写だろう。物語が進むにつれ、一人一人の悲惨で理不尽な過去が明らかになっていく。だからこそ、現在の彼らがたどり着いた小さな幸せに対する強い共感が湧くのだ。

身寄りを亡くした10代の女の子・リリーの存在が、物語にさらなる奥行きを与える。4人は同居する彼女を気にかけつつ、時に不器用な言葉で人生を語る。節目節目に全員そろってケーキを食べるなど、描写は親密で温かい。血のつながっていない5人が織りなす〝家族の物語〟でもある。

アニメ化もされるなど人気を博した『リストランテ・パラディーゾ』をはじめ、著者は年輪を重ねた男性のダンディズムを描かせたら当代随一の描き手の一人。人生の酸いも甘いも経験したおじさまたちの渋さや、ふとしたときに見せる弱さを漫画で味わえるのは貴重だ。既刊6巻。(スクウェア・エニックス 各660円)

本間英士

産経新聞
2022年9月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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