『LISTEN.』
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QRコードで文章と動画が同時に!世界の民族音楽を巡る旅
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
俳優の山口智子が世界中を巡り、後世に残る音楽ドキュメンタリーを10年もかけて撮っていた……。いま、この地上のどこかで民衆が歌う声を残したいという決意。それを彼女はほんの数人の仲間たちと成し遂げようとしている。本書を読み終わって心の底から驚き、感動した。
2011年9月、ハンガリーのブダペストで夜の帳から聞こえた音楽に魅了され、旅は始まった。ジプシーバンドを追いかけて子供たちの洗礼式に混ぜてもらう。逞しい女性たちが作った料理を食べバンドの音が鳴ると、踊らずにはいられない。
続いて訪ねたのは南セルビア。ブラスバンドの発祥の地でバルカンブラスの聖地だ。だがミュージシャンは気まぐれで、予定通りには進まない。そんなとき小さな村で祝宴に出会う。10歳くらいの少年たちが手に手に管楽器をもって歓迎してくれ、あとは食べて踊って夜が更ける。
スペインではフラメンコ、ギリシャのクレタ島では弦楽器のリラを奏でる詩人と男たちの歌「リズィティカ」に出会う。グルジアの合唱やイタリアのサルデーニャで聴いたテノーレは男声だけのポリフォニー。
南米にわたり、アルゼンチンでは牛を追うガウチョとともに吟遊詩人に巡り合う。中米を経て向かった先は何と北極だ。イヌイットの美しい女性が歌う「喉歌」に聞きほれる。最終地はインドの混沌の中だ。
「LISTEN.」プロジェクトのチームはアメリカ人の監督、日本人の山口、ブダペストとベルリンに住んでいるムービーとスチールのカメラマンと音声・録音担当だけで構成されている。紅一点の山口は野外のトイレもたいへんだったようだ。
本書の最大の魅力は取材した音源を文章と画像と同時に得られることだ。スマホでQRコードを読み込むと短い映像が現れる。百万言の言葉を費やすよりも圧倒的な迫力がある。600ページ超というこの分厚い一冊にぎっしり音楽が詰まっていた。