感心したり、ニヤついたり、やがて物語世界に引き込まれ――

レビュー

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その本は

『その本は』

著者
又吉, 直樹, 1980-ヨシタケ, シンスケ, 1973-
出版社
ポプラ社
ISBN
9784591174326
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

感心したり、ニヤついたり、やがて物語世界に引き込まれ――

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

 子育て世代から絶大な支持を集める絵本作家・ヨシタケシンスケとお笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹の共作。表紙のダブルネームを見かけてすかさず購入したら、プロローグの1行目がこんな具合。

〈その本は、表紙に二人の男の名前が書いてありました〉

 なんてオシャレな書き出しでしょう。うまいなぁと思って読み始めたが、この件が読後には深い意味を帯びる。野暮な説明はしないけど、いちいち手が込んでいるのだ。

 ストーリーは、二人の男が本好きの王様から「めずらしい本」の話を集めてきてほしい、と頼まれるところから始まる。

〈その本についての話を聞いてきてくれ。そしてその本の話を、わしに教えてほしいのだ〉

 旅から戻った二人は、代わる代わる王様にいろいろな本の話をする。「本」そのものではなく本の「話」を集めたというのがポイントで、二人が語り部として大活躍。

 又吉さんは文章だけで、ヨシタケさんは絵本のスタイルだが、どちらもこんな風に語りはじめる。〈その本は、双子である〉〈その本は、くだらないことしか書いてない〉〈その本は……〉

 最初は練達の作家によるネタ合戦を楽しんだ。ダジャレあり、巧みな仕掛けもあり、何ページも語られるストーリーもあれば、ズバッと1行だけで決めてくることも。

 感心したり、ニヤついたり、つい吹き出したりしながら読み進めていくうち、ただの大喜利じゃないことに気づく。胸の底にある感情を呼び起こすような話が挟み込まれる。やがて物語世界に引き込まれていく。

 作中人物である二人の男の絵が、なぜ作家自身に似せてあるのか。複雑な入れ子構造は何なのか。私は王様ではなく小4の次男にせがまれて何度も読み聞かせているが、読むたびに新たな発見がある。子供だけでなく大人にもオススメの快作。

新潮社 週刊新潮
2022年9月29日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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