『松本清張推理評論集 1957‐1988』松本清張著(中央公論新社)

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松本清張推理評論集

『松本清張推理評論集』

著者
松本 清張 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784120055461
発売日
2022/07/20
価格
2,750円(税込)

書籍情報:openBD

『松本清張推理評論集 1957‐1988』松本清張著(中央公論新社)

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

社会派の巨人 熱く語る

 没後三十年という節目に様々な「清張本」が刊行されているが、本書はそのなかでも異色のものだろう。評論集というタイトルから想像するほど堅苦しい内容ではなく、小説でもノンフィクションでも研究考察系の硬派な文章でもない、「それ以外」の多彩なエッセイや対談やインタビュー、講演録などを集めた贅沢(ぜいたく)で楽しい一冊だ。

 二〇〇四年に松本清張傑作短篇(たんぺん)コレクション(文庫版で三冊)を編んだ際、文藝春秋刊の全集に収録されていない中短編が山のようにあることに驚かされた。今回も、一九五七年から八八年までに限ってでさえ、「それ以外」でこのページ数になることに、あらためて感嘆している。清張さんには、一日が四十時間ぐらいあったのではなかろうか。

 小説家としてある程度の実績を積むと、賞の選考委員を務めたり、(今まさに私がそうしているように)書評を書く機会があったりする。「創作」そのものや、自分が属している文芸ジャンルについて意見を求められることもある。そういうとき、正直に対応しようと思いつつも、心の片隅に隙間風が吹く。「何かエラそうに断定的なことを言ったら、その言がすぐブーメランになって返ってくるかもしれない」という臆病風である。

 さすがの大清張だって、少しはそのへんの逡巡(しゅんじゅん)があったのではないか――という卑小な好奇心を抱きつつページを繰ったのだが、申し訳ありませんでした、本書にそんな気配はない。さりとて、ただ立派すぎるわけでもない。ごく私的な感想としては、「校長先生はやっぱり偉かった」「でも自分の若いころのことを語るときは可愛(かわい)い」と申し上げたい。

 社会派推理小説の巨人・松本清張は、ともすると、旧来の「探偵小説」のイデオロギー的な敵だと認識されてきた。そう解釈されても仕方ない発言もある。しかし本書に収録されている江戸川乱歩との対談や「乱歩論」などを読むと、何だか水が流れるようにそれらの印象が洗い流されていくのを感じる。あとに残るのは「推理小説」への生真面目な情熱だ。

読売新聞
2022年9月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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