『我が人生 ミハイル・ゴルバチョフ自伝 (原題)Остаюсь оптимистом』ミハイル・ゴルバチョフ著(東京堂出版)

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我が人生 ミハイル・ゴルバチョフ自伝

『我が人生 ミハイル・ゴルバチョフ自伝』

著者
ミハイル・ゴルバチョフ [著]/副島英樹 [訳]
出版社
東京堂出版
ISBN
9784490210675
発売日
2022/07/26
価格
3,960円(税込)

書籍情報:openBD

『我が人生 ミハイル・ゴルバチョフ自伝 (原題)Остаюсь оптимистом』ミハイル・ゴルバチョフ著(東京堂出版)

[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)

初代大統領 離れ業の背景

 本年8月30日、旧ソ連の最高指導者ゴルバチョフが91年の生涯を閉じた。本書の翻訳出版はこれに重なった。

 米ソ冷戦の終焉(しゅうえん)からすでに33年、いうまでもなく、彼はそれを演出した主役である。ロシアでの彼の評価は賛否両論だが、西側世界の評価は圧倒的に高い。本書はソ連からロシアへの移行に関する貴重な歴史証言に満ちている。自伝特有の自己正当化は見られるが、向けられた批判にも真摯(しんし)に対応している。

 ソ連権力の頂点を極めた共産党書記長がなぜペレストロイカ(立て直し)やグラスノスチ(情報公開)を掲げて一党独裁を排し、党権力を国家に委譲して自らが初代大統領になるという離れ業を演じたのか。出世階段を上り詰める過程で経験した党内の腐りきった組織と人間関係、父方母方それぞれの祖父がスターリニズムに翻弄(ほんろう)される悲惨な体験をした記憶、モスクワ大学で出会ったライサ夫人という最高の「同志」との信頼関係、そうしたものが背景として浮かび上がる。

 過去の指導者の描写も面白い。スターリンを批判したものの自身も個人独裁的に振る舞ったフルシチョフ、猜疑心(さいぎしん)が強く忠実でない人間を排除したブレジネフ、面従腹背が得意で、新憲法によって大統領権限を強化し独裁化したエリツィン等々。ロシアの復権を図るプーチンについては期待感を示しつつも、その権威主義傾向に一定の懸念を示している。

 自伝は2017年までの記述で終わっているが、実母とライサ夫人がウクライナ人だということもあってか、ウクライナ問題への言及も多い。彼は根本的な原因がソ連解体を許したエリツィンら当時のロシア指導部にあると言うが、それは民主化の必然の帰結ではなかったのか。

 本書を通読すると、一人の不世出の政治指導者の世界に浸ることができる。民主主義を基本理念に、固い信念と行動力によって他者と対話し、自らへの批判に向き合い、最後は権力にしがみつかず、家庭を大事にする。本書は現代史研究者の必読書だが、リーダー論としても有用である。副島英樹訳。

読売新聞
2022年9月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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