『人は死ねない 超長寿時代に向けた20の視点』奥真也著(晶文社)
[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)
病抱え長生き 課題山積
超長寿時代における生と死をどう考えるか、議論を呼び起こす一冊である。著者は医師にして医療未来学の研究者。近年、画期的な新薬の開発や人工臓器の実用化へ向けた動きなど、医学は驚異的な進歩を遂げており、多くの種類のがんをはじめ様々な病気の克服の見通しが立ちつつある。さらに基礎体力の向上、生活習慣の改善、救急医療体制の充実などの要因も加わり、人は簡単には「死なない」時代、あるいは「死ねない」時代が到来すると著者は言う。人生一〇〇年どころか還暦が2回来る一二〇年が現実味を増してくるとも予想する。
こういう超長寿の人生をどう受け止め、長い時間をどう過ごし、そしてどう死ぬかが個人にとっても社会全体にとっても重要となる。まず、長寿=不老とはならず、病気や不調と共に生きる「多病息災」となり医療費が嵩(かさ)むことから、個人の資産形成が重要となり、健康保険制度のあり方も切実な社会的課題となる。そして生や死のあり方についての考え方も多様化し、本人だけでなく家族や医療関係者、行政もそういう時代に対応していくことが求められる。最終章では未来の生と死を読者自身で考えるための視点として20のケーススタディを示す。
終末期の迎え方については、例えば意思表示が困難になった場合にどの程度の延命治療を望むかなど、事前の意思を確認し尊重する「事前指示書」が徐々に普及しつつあるものの、法律的な拘束力はないのが現状である。本人が心変わりしていた場合や家族が反対した場合にどう扱うかなど、デリケートで難しい問題も予想され、我が国では終末期をどのように迎えたいかという「死の自己決定権」に関する制度の議論がなかなか進まない。だが長寿社会が実現し、さらに超長寿の時代を迎える中では個々人の意思がより尊重されるべきであり、将来に向けた総合的な議論が必要と著者は力説する。賛否様々だろうが重要な問題提起だ。