アニメ映画『四畳半タイムマシンブルース』(小津役)吉野裕行インタビュー “「私」と小津は相思相愛かと言われれば、ちょっと違う”

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アニメ映画『四畳半タイムマシンブルース』(小津役)吉野裕行インタビュー “「私」と小津は相思相愛かと言われれば、ちょっと違う”

[文] カドブン

■アニメ映画『四畳半タイムマシンブルース』(小津役)吉野裕行インタビュー

森見登美彦の原作をアニメ化した「四畳半神話大系」。同作の脚本を手掛けた、上田誠(ヨーロッパ企画)の代表作『サマータイムマシン・ブルース』が、『四畳半タイムマシンブルース』としてまさかの融合! 本作で、主人公「私」の友人にして、傲慢&怠惰、天の邪鬼な小津役を演じるのが吉野裕行。物語をかき乱すキャラを嫌味なく体現する吉野に、公開を前にしたいまの想いを聞く。

▼(「私」役)浅沼晋太郎インタビューはこちら
https://www.bookbang.jp/review/article/740974

アニメ映画『四畳半タイムマシンブルース』(小津役)吉野裕行インタビュー “...
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■キャラクターたちが「演じる」世界

――久々に、あの「四畳半神話大系」の世界がアニメで帰ってきます。今回のアニメ化のことを聞かれたときはどんな想いでしたか。

吉野裕行さん(以下吉野):やっぱり嬉しいですよね。アニメ化は、原作が刊行された際にSNSなどでファンの方でも待望してくださっているのは知っていました。けれど、実際にアニメ化されるかはわかりませんし、自分にオファーが来るかはわからない。だから、現場に入るまでは信じていませんし、もっと言えば、映画館でちゃんと上映されるまで自分の出演を信じていないんです。

――アニメ業界の「あるある」かもしれませんね。ただ、原作の編集部では、吉野さんが小津役で出演されることが決まり、大変喜んでいたそうです。

吉野:ありがとうございます。でも、僕に何かの問題があって、声だけ差し替えになる可能性もゼロではありませんから(笑)。

――もうその可能性もないと思います(笑)。そもそも森見登美彦さんの原作「四畳半神話大系」については、どんな印象をお持ちでしたか。

吉野:僕は最初のオーディションの時に、初めて「四畳半神話大系」に出会ったんです。そこで感じたのは、森見さんが書く言葉の面白さ、独特のリズムの不思議な心地良さですよね。そして、我々が国語の授業で学ぶ著名な文豪たちのような言い回しにも魅力を感じました。たとえば、一つの事柄を遠回りして表現するところなども面白いな、と。

――あらためて、今回の台本を読まれた際の印象も教えてください。

吉野:実は少し「四畳半神話大系」とは違う印象を受けています。今回はあくまで「四畳半神話大系」と、『サマータイムマシン・ブルース』の組み合わせなわけで。僕は「四畳半神話大系」に出てきたキャラクターたちが、この『サマータイムマシン・ブルース』の世界を演じているような感じがしてるんです。

アニメ映画『四畳半タイムマシンブルース』(小津役)吉野裕行インタビュー “...
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――なるほど。メタフィクション構造ということですね。

吉野:なので、僕はあえて、映画版の『サマータイムマシン・ブルース』は観ていません。『四畳半タイムマシンブルース』が無事に上映されて、全てが終わったら観ようと思っていまして。なぜかというと、作品に対していろんな情報を入れて収録してしまうと、自分の中で小津の軸がブレてしまいそうで怖かったんです。

――ご自身が演じられた小津というキャラクターに関して、どんな人物だと思われていますか。

吉野:「四畳半神話大系」の頃からですが、僕の中では台本に書いてある通り、見た通りの人物なんです。ただ、ヘンに可愛くしようとか、不気味にしないほういいだろうと思いました。一方で、“得体の知れなさ”や“なんか胡散臭い”感じは表現できたらいいなとも思っていましたね。

――小津は胡散臭いところがありますが、吉野さんが演じることで悪辣さの中に、不思議と品があるキャラクターになっている気がします。

吉野:それも森見さんの原作の力だと僕は思います。キャラクター的なことで言えば、前作の小津は、違う並行世界のいろんなところに何度となく出てくる神出鬼没さがあって、おっしゃるとおり悪辣でした。けれど、今作は基本的に一つのテーマで進んでいく物語なので、それほど悪党ではない小津になっていると思います。リモコンにコーラをこぼしたり、多少迷惑なだけというか(笑)。

――彼がコーラをこぼさなければ、この話にはならなかったわけですから、やはりキーパーソンですね(笑)。

吉野:確かに(笑)。ことの発端はクーラーのリモコンの故障なんですよね。しかも、2日間ぐらいの未来と過去を行ったり来たりするしょうもない話(笑)。けれど、しょうもなさが、僕にはどこか懐かしくもあるんです。

――というのは?

吉野:学生時代って、時間はいっぱいあっても、お金はないじゃないですか。自分の世界もそこまで広くない中で、精一杯楽しんでいる。自分の学生時代を振り返ってみると、彼らと同じ感じでしたね。僕なんかも学生時代の夏休みは一日中ダラダラして、なんて不毛な会話しかしてないんだろうみたいなことはよくありました(笑)。あと、やたら海に行ってましたね。急に友達と夜中に出かけて海を見て、朝方帰ってきたり。昼間に海へ行っておきながら、女の子を眺めただけで声すら掛けないで帰ってくることも(笑)。しょうもないけど、仲間内では十分楽しい時間なんですよね。その青春時代の雰囲気がこの作品でも表現されていて、そこが好きですね。

――アニメ全体に、どこか懐かしいノスタルジックな雰囲気がありますよね。小津と「私」の関係性もポイントかと思います。吉野さんはこの二人をどうご覧になっていますか。

吉野:相思相愛かと言われると、ちょっと違う気がします。多分、「私」からすると、小津は厄介な同級生なんだけど、小津からしたら自分に近いシンパシーを「私」に感じるんでしょうね。 小津が“放っておかないで”って感じで絡んでるというか(笑)。その関係性は前作から基本的には変わってないですし、今作においてはそれすら小津の「役どころ」のような感じもするんです。ただスタッフから収録の時に、明石さんを追いかける「私」が古本市で小津と取っ組み合いになるシーンで、「小津に「私」への愛情があるんだってことを、芝居の中に盛り込んでほしい」と言われました。

――劇中で、その愛情は、そこはかとなく感じました(笑)。

吉野:小津は小津なりに、どこかにちゃんと「私」の背中を押したい気持ちがあるんだとは思います。しかしながら、そうした気持ちもあんまり全体の芝居の中でやりすぎると小津ではなくなるので、エッセンスとして意識するぐらいで臨みました。

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■一人として同じキャラにしたくない

――「私」役の浅沼晋太郎さんには声優として、どんな魅力を感じますか。

吉野:声優は必ずキャラクターに何らかのアプローチをしているんですが、浅沼くんは役を自分の側に引きつけるタイプなんじゃないかなと思います。現場によって違うのかもしれませんが、僕が共演した作品では、そういうふうに感じました。たとえば僕は「四畳半神話大系」以外で小津の声は芝居で使わない。けれど、浅沼くんの場合は、本来の自分に近い声で芝居ができる。けれど、それは浅沼くんの出演作を観て、「これは浅沼くんだ!」って分かるという意味ではないんです。そこが不思議なところですが、作品の中に溶け込む力が強い人なんだと思います。

――吉野さんは、ご自身を、役に対してどうアプローチする声優だと思われますか。

吉野:正直、僕自身は“自分がこう演じたい!”という芝居がないんです。ただ自分の脳内で、台本に書いてあるキャラクターがしゃべっているのが聞こえてきて、それを自分の声で音にしてるだけなんです。あと、それぞれの世界におけるキャラクターの立ち位置や存在の在り方は一つひとつ違うわけだから、一人として同じキャラにしたくないという想いは常にありますね。それでも、声質やタイプが似てしまう役はあるので、そこは喋り口調や語尾のまとめ方、呼吸の仕方などで気をつけています。

――どの作品に対してもそのアプローチなのでしょうか。

吉野:それが声優の仕事だと思っていますから。とはいえ、それを万人が認めてくれるわけではないですよね。だから、まずは観てくれる人たちがいるだけでも嬉しいし、そこからの評価の声はあまり意識し過ぎないようにしています。

――最後に、劇場公開&配信を楽しみにしているファンの方、あるいは初めて『四畳半タイムマシンブルース』で森見ワールドを知るという方にメッセージをお願いします。

吉野:森見さんの作品が初めての方でも、今作は十分に楽しめますよね。同時に、登場人物たちが個性的で、それでいてギュッと小さくクローズな世界観が、皆さんの懐かしい思い出と重なるところがあるんじゃないかと思います。原作にも触れていただき、アニメ「四畳半神話大系」も観ていただけると、よりいっそう『四畳半タイムマシンブルース』が楽しめるんじゃないかと思います。ぜひご期待ください。

■プロフィール

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吉野裕行
千葉県出身。96年に声優デビュー。以降、数々のアニメ、ゲーム、ナレーションなどで活躍。代表作に『薄桜鬼』(藤堂平助)、『機動戦士ガンダム00』(アレルヤ・ハプティズム、ハレルヤ)、『弱虫ペダル』(荒北靖友)、『スター☆トゥインクルプリキュア』(プルンス)などがある。

■作品情報

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『四畳半タイムマシンブルース』
9月30日(金)より3週間限定全国公開
ディズニープラスにて独占配信中(配信限定エピソード含む全6話順次配信)

原作:「四畳半タイムマシンブルース」森見登美彦著、上田 誠原案(角川文庫/KADOKAWA刊)
監督:夏目真悟
脚本:上田 誠(ヨーロッパ企画)
キャラクター原案:中村佑介    
音楽:大島ミチル
主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION 「出町柳パラレルユニバース」(Ki/oon Music)    
アニメーション制作:サイエンスSARU
キャスト:浅沼晋太郎 坂本真綾 吉野裕行 中井和哉 諏訪部順一 甲斐田裕子 佐藤せつじ 本多 力(ヨーロッパ企画)
配給:KADOKAWA/アスミック・エース    

公式ホームページ
https://yojohan-timemachine.asmik-ace.co.jp/

公式Twitter
https://twitter.com/4andahalf_tmb

(C)2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会

■原作書籍情報

『四畳半タイムマシンブルース』(角川文庫)
著:森見登美彦
原案:上田 誠
カバーイラスト:中村佑介
定価: 704円(本体640円+税)
原作公式サイト:https://kadobun.jp/special/yojohan-timemachine/

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KADOKAWA カドブン
2022年09月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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