<書評>『深川駕籠(かご) クリ粥(がゆ)』山本一力 著

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深川駕籠 クリ粥

『深川駕籠 クリ粥』

著者
山本一力 [著]
出版社
祥伝社
ISBN
9784396636319
発売日
2022/08/09
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『深川駕籠(かご) クリ粥(がゆ)』山本一力 著

[レビュアー] 内藤麻里子(文芸ジャーナリスト)

◆手に汗握る江戸人情譚

 実に十一年ぶりとなる「深川駕籠」シリーズの四作目に当たる新作にして、過去三作で育ててきた人物像や関係性が一気に花開いた感がある。

 このシリーズは、江戸は深川の駕籠舁(か)きを主人公にしている。この設定は、時代小説では珍しいことなのだ。駕籠舁きは「雲助」などと呼ばれて評判が悪く、主人公向きではなかったかもしれない。

 しかし、山本一力は粋でいなせな駕籠舁きを生み出した。新太郎は六尺(一八〇センチ超)に届きそうな上背があり、しかも様子のいい男だ。以前は臥煙(がえん)(火消し)で、老舗両替屋の後継ぎだったがとうに勘当されている。元力士の尚平を相棒に、意地と張りをもって江戸の町を走る。

 脇を固めるのは、難物だが奇特な人物でもある裏店(うらだな)の大家、尚平の思い人、ライバルの駕籠舁き、新太郎が心寄せるものの立場の違いで思いにフタをする花屋の女将(おかみ)ら。こんな面々と共に、義理と人情で無理難題に挑んでいく。

 本書には表題作と「なおしの桜」の二本を収録する。「クリ粥」では新太郎と尚平が同じ裏店の住人、鉄蔵から死を前にして「クリ粥を食わせてくれ」と頼まれる。ところが冷夏による不作のうえ、時期は十一月。おいそれとは手に入らないクリ探しが始まる。「なおしの桜」はその鉄蔵が亡くなり、新太郎と尚平に託された金子(きんす)の使い道をめぐる騒動を描く。

 クリを求めるのも、金子の使い道を探るのも、無理難題がいくつも立ちふさがる。どう切り抜けるか手に汗握る。ここで周囲の人々が底力を見せる。そして何よりも、新太郎が成長している。当初はあおられるとすぐにカッとしていた新太郎だが、本書では道理や大人の分別も身に付けているではないか。そんな新太郎だからこそ、みんなが力を貸す。そうか、このシリーズは彼の成長譚(たん)でもあったのかと膝を打った。

 行き届いた心遣いや礼儀、人情の機微などをスパスパ描いて小気味いい語り口。時にしっとりと読ませもする。十一年も待たれていたその人気ぶりがわかろうというものだ。

(祥伝社・1980円)

1948年生まれ。作家。『あかね空』『晩秋の陰 画(ネガフィルム)』「ジョン・マン」シリーズなど多数。

◆もう1冊 

山本一力著『深川駕籠』『お神酒(みき)徳利』『花明かり』(祥伝社文庫)。シリーズ作品。

中日新聞 東京新聞
2022年9月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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