気持ちを通じさせるために老いの病にアンテナを張ろう
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
著者は私のアイドルで、ピンキーとキラーズから追いかけ、ソロとなって以降、今も追っている。時に会場に現れて、著者に寄り添う母上とも親しく会話を交わす機会もあった。
母上は歌も踊りも達者で、独身時には「コロムビア全国のど自慢コンクール」で優勝、島倉千代子の先輩になる可能性もあったが、戦後すぐということと家族の反対で歌の道を断念、夢を娘に託していたと聞いたことがある。
父は他界、弟家族とは別に住み、母娘の2人暮らしの中、90歳時の母に異変が起こる。老いを感じさせぬ元気な母が、一日中黙って椅子に座ったままなのだ。認知症と気づかぬ著者はただ驚くばかりだったという。
家を母に託し、忙しく飛び回っていた著者が付いていなければならなくなった。苛立ち、怒鳴ってしまったこともあると著者は正直に綴る。やがて認知症を勉強し、介護経験者や専門医にも聞き、5つのステージを歩む。「驚き・とまどい」「混乱・怒り」「あきらめ・開き直り」「理解」「受容」である。
著者は「認知症は接し方を変えれば100%変わる!」との医師の言葉にも励まされたと言う。患者は意味不明なことを言うし、こちらの指示にも従わない。しかし好き嫌いや楽しい悲しいという感情はあり、つまり感情に働きかければ気持ちが通じることに気づく。
コロナ禍は著者が15歳でデビュー以来の長い母との時間をもたらした。この数年の母との時間を振り返り、反省も含めて介護のことを書き残そうと思ったという。大いに参考になる人が全国にたくさんいると思う。
私にすでに両親はなく、特に父は96歳で亡くなる直前までピンピンしていて、つまり私に親の介護の経験はないのだが、ふと気がつくと介護される側の年齢が近づいている。
認知症を始めとする老いの病にアンテナを張ろうと思う。まず手始めは介護保険についてであろうか。