気持ちを通じさせるために老いの病にアンテナを張ろう

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認知症の母が劇的回復を遂げるまで

『認知症の母が劇的回復を遂げるまで』

著者
今陽子 [著]
出版社
IDP出版
ISBN
9784905130390
発売日
2022/06/06
価格
1,650円(税込)

気持ちを通じさせるために老いの病にアンテナを張ろう

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 著者は私のアイドルで、ピンキーとキラーズから追いかけ、ソロとなって以降、今も追っている。時に会場に現れて、著者に寄り添う母上とも親しく会話を交わす機会もあった。

 母上は歌も踊りも達者で、独身時には「コロムビア全国のど自慢コンクール」で優勝、島倉千代子の先輩になる可能性もあったが、戦後すぐということと家族の反対で歌の道を断念、夢を娘に託していたと聞いたことがある。

 父は他界、弟家族とは別に住み、母娘の2人暮らしの中、90歳時の母に異変が起こる。老いを感じさせぬ元気な母が、一日中黙って椅子に座ったままなのだ。認知症と気づかぬ著者はただ驚くばかりだったという。

 家を母に託し、忙しく飛び回っていた著者が付いていなければならなくなった。苛立ち、怒鳴ってしまったこともあると著者は正直に綴る。やがて認知症を勉強し、介護経験者や専門医にも聞き、5つのステージを歩む。「驚き・とまどい」「混乱・怒り」「あきらめ・開き直り」「理解」「受容」である。

 著者は「認知症は接し方を変えれば100%変わる!」との医師の言葉にも励まされたと言う。患者は意味不明なことを言うし、こちらの指示にも従わない。しかし好き嫌いや楽しい悲しいという感情はあり、つまり感情に働きかければ気持ちが通じることに気づく。

 コロナ禍は著者が15歳でデビュー以来の長い母との時間をもたらした。この数年の母との時間を振り返り、反省も含めて介護のことを書き残そうと思ったという。大いに参考になる人が全国にたくさんいると思う。

 私にすでに両親はなく、特に父は96歳で亡くなる直前までピンピンしていて、つまり私に親の介護の経験はないのだが、ふと気がつくと介護される側の年齢が近づいている。

 認知症を始めとする老いの病にアンテナを張ろうと思う。まず手始めは介護保険についてであろうか。

新潮社 週刊新潮
2022年10月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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