料理は芸術の一ジャンルか?

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「美味しい」とは何か

『「美味しい」とは何か』

著者
源河 亨 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784121027139
発売日
2022/08/22
価格
902円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

料理は芸術の一ジャンルか?

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 信頼できる人が絶賛する店の料理であっても、その味に感動するとはかぎらない。値段にふさわしい味なのか? 長蛇の列に堪えるほどおいしいか? など、疑問に思うこともある。

 たいがいの人は「味の好みは人それぞれ。自分には合わなかった」と思い、それ以上深くは考えない。しかし源河亨『「美味しい」とは何か』は、その先へとぐいぐい踏み込んでいく。こういう学問は、よく切れるナイフみたいに気持ちがいいものだ。

 著者の武器は「美学」。「引き際の美学」などという場合のアレではなく(アレは「カッコよさを決めるすぐれた価値観」みたいな意味だろう)、美的な現象を哲学的に研究する学問分野である。美的な現象のうちでも特に芸術を対象にしていて「芸術哲学」のようになっているが、味覚をその研究対象に加えてもいいではないか、というのが著者の考えなのである。

 味覚は、たとえば視覚とくらべて、生命維持のための原始的な感覚と思われがちである。でも、だからといって軽視していいのか。また、「おいしさ」を決めるのは味覚だけではなく、われわれは五感を動員したうえで味を評価していることもわかっている。

 おいしさは主観的・個人的な感覚なのか。客観的な評価はありうるのか。最後に著者は、「料理を芸術の一ジャンルと考えてよいか」を問う。理知的で気さくな感じの文章が心地よい。味にまつわる言語表現を磨きたくなった。

新潮社 週刊新潮
2022年10月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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