『貸し物屋お庸謎解き帖 桜と長持』
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<東北の本棚>江戸情緒 人間味豊かに
[レビュアー] 河北新報
「無い物はない」を看板に掲げ、江戸の庶民の暮らしを助けている貸し物屋の女性店主・お庸が、物を借りに来た客が抱えている厄介事やままならない葛藤を個性的な仲間と解決していく時代小説だ。
お庸は口は悪いが、美しく機知に富み、行動力と優しい心根で「訳あり」の客を救っていく。その救い方は慈悲深い。丁寧に書き込まれた江戸の生活感を味わいながら、奇想天外で人情味豊かな作品世界を堪能することができる。
本著は文庫のための書き下ろし。春夏秋冬にちなんだ短編6話を収録している。「桜と長持」では、家柄と恋愛のはざまで悩む娘を巡る人間群像を描いた。「遠眼鏡の向こう」では、男性同士の色恋沙汰から男娼(だんしょう)の切ない心情を浮き彫りにした。「ちびた下駄」は家族を捨てた男の悲哀を取り上げた。
全編を通じて、苦い現実の哀歓や謎解きの醍醐味(だいごみ)が味わえる。オカルトの要素をふんだんに盛り込んだ作品もあり、作者の円熟した筆致と引き出しの多さを感じさせる。
著者は1960年久慈市生まれ。岩手県金ケ崎町在住。2000年に「エリ・エリ」で第1回小松左京賞を受賞。08年10月から687回にわたって、河北新報朝刊に「沙棗(さそう)~義経になった男」を連載した。(沼)
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大和書房03(3203)4511=858円。