『レペゼン母』
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<書評>レペゼン母 宇野碧(あおい) 著
[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)
◆痛快 母と息子のラップバトル
母親と息子の確執。今までにどれだけ、このような話を読んできただろう。手垢(てあか)の付いた題材である。それでも第十六回小説現代長編新人賞を受賞した、本書を手に取った。親子の関係を描くために作者が持ち出したのが、ラップバトルであるからだ。なおレペゼンは、ヒップポップ用語で「代表」を意味する。
深見明子、六十代半ば。和歌山の田舎町で梅農園を経営している。農園は順調だが、唯一の気がかりが、女手ひとつで育て上げた息子の雄大だ。離婚を繰り返し、借金まみれ。三度目の妻の沙羅を置き去りにして、行方不明になっている。そんな日々を過ごしている明子だが、沙羅がラップバトルに参加したことをきっかけに、ラップに興味を持つようになる。そしてラップバトルの大会で、息子とバトルを繰り広げるのだった。
ラップに縁のなかった明子が、沙羅を通じてラップを知り、さらに彼女の代役としてラップバトルをする。母親という立場から発せられる、明子のラップが愉快痛快だ。また、ラップの世界などを通じて、ジェンダー問題に切り込んでいる点も、見逃せない。
だが本書の一番の読みどころは、親子の関係だ。子供の頃から騒動ばかり起こす雄大の尻拭いを、ずっと明子はしてきた。なぜ息子は、駄目人間になってしまったのか。いくら自分に問うても、答えはでない。
だからこそ雄大がラップバトルの大会に参加することを知り、明子も参加を決意。紆余(うよ)曲折を経て、息子と対決するのだ。そこで親子は、互いに本音をぶつけ合う。明子は、息子に対する自分の態度にも問題があったことに気づく。そしてようやく、母親は息子から、息子は母親から自立するのである。この展開が、熱く、爽やかだ。
最初に書いたように、母親と息子の確執という題材は、手垢が付いている。だが、ラップバトルという要素を盛り込むことで、とても面白く、とても気持ちのいい物語が出来上がった。将来を大いに期待したくなる、新人のデビュー作なのだ。
(講談社・1540円)
1983年生まれ。今年、本作で小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。
◆もう1冊
水島かおり著『帰ってきたお父ちゃん』(講談社)。困った父親に振り回された娘の半自伝的小説。