書店経営の難儀さと書店員のタフな仕事ぶりを題材にした小説2作

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早番にまわしとけ 書店員の覚醒

『早番にまわしとけ 書店員の覚醒』

著者
キタハラ [著]/山本さほ [イラスト]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784040745824
発売日
2022/07/29
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

新! 店長がバカすぎて

『新! 店長がバカすぎて』

著者
早見 和真 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758414289
発売日
2022/08/31
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

[本の森 仕事・人生]『早番にまわしとけ 書店員の覚醒』キタハラ/『新! 店長がバカすぎて』早見和真

[レビュアー] 吉田大助(ライター)

 行き付けの書店である日、入口付近の棚にずらっとレトルトカレーが“面出し”されていた。それまでも本の代わりに文房具類が置かれるようになってはきていたものの、カレーと書店のマッチングには脳が揺れてしまった。そんなタイミングで出会ったのが、書店経営の難儀さと書店員のタフな仕事ぶりを題材にした二冊の小説だ。どちらも続編、シリーズ第二作だが、ここから読んで問題ない。

 キタハラ『早番にまわしとけ 書店員の覚醒』(KADOKAWA)は、さかえブックス五反田店の新店長になった由佳子の物語。もうすぐ三〇歳の彼女は入社以来、サカエグループのアパレル部門で働いていたため急な抜擢だった。書店員経験ゼロゆえに、アルバイトにダメ出しされてはヘコむ日々。野鳥雑誌はペットコーナーに置くな! 正解は? アウトドアコーナー……などなど細かいくすぐりエピソードが満載で、書店員の思考を追体験できる。

 由佳子はある時ふと思う。〈いまの職場は、自分一人だけ、「したい仕事」をしていないような疎外感がある。それはとても孤独で、みじめに思える〉。でも、〈自分が店長でいるあいだは、絶対に潰さない〉。その理由は、本がものすごく好きになったからではなく、本と読者を繋ぐ書店という場の魅力を知り、一緒に働く仲間が好きになったからだ。『早番にまわしとけ』というタイトルは、遅番から早番に対する「尻拭い」の依頼を意味するものではない。早番にならば任せられる、という信頼の証だ。

 早見和真『新! 店長がバカすぎて』(角川春樹事務所)は、宮崎の店舗に異動となっていた山本猛が、武蔵野書店吉祥寺本店の店長に三年ぶりに復帰する場面で幕を開ける。本屋大賞にノミネートされた前作同様、自己啓発本狂いで「バカすぎ」る、店長のうざいムーブは健在。なぜか店長に弟子認定された三二歳の正社員・京子は日々、ストレスを募らせる。とはいえそのうざさに敵対することで、他の書店員たちと共闘関係が発生しチームワークは高まっていく、と言えなくもない、かもしれない。

 コロナ禍の実情を反映した本作は、感染リスクが未知数な状況下でも店に立った書店員たちへのエールが籠められている。書店への愛だけではなく、鋭い批評眼も本作の魅力だ。〈再販制度のおかげで定価販売が義務づけられ、置かれている本のラインナップにそう違いがあるわけじゃないのに、食指の動く書店とそうじゃない書店というものが間違いなく存在している〉。その違いは何に由来するのか? この店で買いたい、この店には面白い本がある。そう感じさせてくれるのは、そこで働く全ての人々によって織り成される、場の力だ。

 二作を読めば書店という場所、そこに並んでいる本やそこで働く人々が、それまでとは違った角度で見えてくる。行き付けの書店にもきっと、本と同じくらいカレーが好きな書店員がいたのだろう。

新潮社 小説新潮
2022年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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