山田章博が描く圧倒的迫力と繊細さの極み 「十二国記」世界を具現化した決定版!

レビュー

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「十二国記」画集《第二集》青陽の曲

『「十二国記」画集《第二集》青陽の曲』

著者
山田 章博 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/絵画・彫刻
ISBN
9784103359326
発売日
2022/09/15
価格
3,630円(税込)

書籍情報:openBD

異世界「十二国記」を具現化する決定版!

[レビュアー] 堺三保(作家、翻訳家、脚本家)


『月の影 影の海』(下)挿絵、人物のみならず、主人公を襲う妖魔も緻密に描かれる(イラスト 山田章博)

「十二国記」シリーズの壮大な世界観の中で躍動する山田章博のアートワークを、原画に近い迫力のサイズで構成した『「十二国記」画集《第二集》 青陽の曲』が刊行された。2012年に刊行開始した新潮文庫《完全版》の装画と挿絵全点に加え、グッズやイベント用の作品、さらに描き下ろしイラストも収録した本作の見どころを、作家、翻訳家、脚本家として活動する堺三保さんが語る。

堺三保・評「異世界「十二国記」を具現化する決定版!」

 山田章博による「十二国記」の絵を集めた画集の第二弾『青陽の曲』が発売された。これは、二〇一二年より刊行が開始された新潮文庫《完全版》のために新たに描き起こされた絵や、その後の新作のための絵を集めたもので、現時点における「十二国記」のイメージの決定版と言っていいものだろう。

 今さら説明の必要は無いと思うが、「十二国記」は小野不由美が三十年間書き継いでいる異世界ファンタジー小説である。その徹底的に考え抜かれた緻密な異世界の設定や描写の数々は、第一作発表から三十年経った今も全く色あせていない。今となっては日本の異世界ファンタジーの世界では、中華風の装いは珍しいモノではないが、「十二国記」こそ、その魁となった作品の一つだった。それまで、「指輪物語」に代表されるようなヨーロッパ風の世界観が主流だった異世界ファンタジーのイメージを一変させる、新たな潮流を作り上げたのである。

 その「十二国記」の世界の装画・挿絵を担当し、外伝とも言える第一作『魔性の子』から一貫して、具体的な視覚化を行ってきたのが、山田章博である。

 山田章博は一九五七年高知県生まれ。現在は京都府在住。今やイラストレーターとして絶大な人気を誇る山田だが、元々は漫画家としてそのキャリアをスタートさせた。そのプロデビュー作は一九八一年、『月刊OUT増刊』に掲載された「ぱだんぱだん」(翌年、短編集『人魚變生』に収録)で、九ページの小品ながらも、古風な世界観と謎めいたキャラクターたちが登場するファンタジーを華麗な筆致で描くという、山田独特の作風がすでに確立されている。

 そんな、漫画家としての活動に加えて、九〇年代から山田が精力的に行うようになったのが、書籍の装画を描くイラストレーターとしての活動だ。SFやファンタジーはもちろん、ミステリや古典に至るまで、山田は今や様々な作品のイラストで、その流麗なタッチを披露している。中でも「十二国記」では、先に述べたとおり、それまではあまり見られなかった中華風異世界を具象化するという試みに挑戦、見事に達成しているところが素晴らしい。

 小説の中では文章でのみ書き表されている、異形の妖魔や不老の神仙たちが、生き生きとした具体的なイメージとなって、読者の前に披露されているのだ。

 この「十二国記」の世界に登場する妖魔たちは、名前こそ中国古代の地理書『山海経』に記されている妖怪たちと同じではあるものの、その性質や形状は元のものとは違うオリジナルな存在だ。それだけではない。「十二国記」の世界そのものが、何者かによって作られた古代中国風の「異世界」であり、そこにあるものはすべて、現実の古代中国のそれとは似て非なるものだと考えるべきだろう。つまり「十二国記」の世界はまさに実在しそうで実在していないある種の「想像上の」世界だと言える。山田はそんな世界にしっかりとした解釈を施し、確かな存在感のある絵として具現化してみせているのだ。

 今回の画集では、カバー画などのカラー画はもちろん、白黒で描かれた挿絵の数々も採録されていて、山田の絵の緻密な描線の美しさを堪能できる。挿絵は本編中の一場面を再現しているものなので、カバー画以上に「十二国記」の世界を具体的に描写しており、先に述べた妖魔たちはもちろんのこと、人々の着る衣服や住んでいる住居など、古代中国のようでいてあくまでも架空の世界である「十二国記」世界の様子をうかがいしれるところがおもしろい。それらの細々としたデザインすべてに、広範な知識に支えられた、山田の優れた美的感覚が垣間見える。

 山田章博のファンや「十二国記」のファンはもちろん、イラストに興味のある人すべてにお勧めしたい。

新潮社 波
2022年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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