カルト教団を舞台に無数の推理が飛び交う大傑作本格謎解き長編

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名探偵のいけにえ

『名探偵のいけにえ』

著者
白井 智之 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103535225
発売日
2022/09/15
価格
2,255円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

カルト教団を舞台に無数の推理が飛び交う大傑作本格謎解き長編

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 論理の曲芸、ここに極まれり。白井智之『名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件』は、カルト教団を舞台に無数の推理が飛び交う本格謎解き長編である。

 主人公の大塒宗は、新興宗教が絡んだ詐欺事件を解決したことで一躍脚光を浴びた私立探偵だ。大塒には有森りり子という大学生の助手がいたが、ある日りり子がニューヨークへと旅立ったきり戻ってこないことに気付く。大塒はりり子の行方を追った結果、彼女が米国の資産家から依頼を受けて、ジム・ジョーデンという新興宗教家の調査に赴いていることを突き止める。怪しい噂の絶えないジムは信者を引き連れてガイアナ共和国に移住し、“ジョーデンタウン”という集落を作り上げていた。りり子のいるジョーデンタウンへと向かった大塒だが、そこで遭遇したのは数々の奇怪な殺人事件だった。

 奇抜な着想を、推理を構成するためのピースとして使うことで、アクロバティックな謎解きを生み出すのが白井智之の特徴だ。本作でも奇蹟を信じる人々が集うジョーデンタウンを巡って、とんでもない趣向が盛り込まれている。詳しくは読んでからのお楽しみだが、それが明かされた瞬間、この先に果たしてどのような謎解きが待ち受けているのかと期待が大いに膨らむはずだ。

 全編、ロジカルな推理で埋め尽くされていると言っていい小説だが、なかでも終盤の百五十頁にわたって書かれる怒濤の推理場面は圧巻だ。ここでは一つの謎に対し複数の解法が提示される多重解決の形式が取られているが、それ以前の頁の至る所に推理のための手がかりが隠されていたことが分かり、愕然とする。謎解き小説として、無駄な部分が全く無いのだ。推理が立ち並んだ後の展開も凄まじく、多重解決にこんな収拾のつけ方があるのか、という驚きが用意されている。一分の隙も無い推理を組み立てるからこそ辿り着く光景は、まさに神の領域。

新潮社 週刊新潮
2022年10月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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