『スリーピング・ブッダ』
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僧侶を目指す若者たちの熱き修行の日々
[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「宗教」です
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ここ数カ月でいちばん驚いたのは、早見和真『八月の母』が直木賞の候補にならなかったことだ。すぐれた小説がたくさんあるので、候補になっても受賞したかどうかは別の話だが、まさか候補にすらならないとは想像外であった。
上半期ベスト10という特集を組んだ「本の雑誌」8月号には、この号が出るころには『八月の母』が直木賞を受賞しているだろうから1位にするのはやめて10位にしようという選考の過程が載っていたが(へそまがりが作っている雑誌なので、こういう発想になる)、候補から外れたことを知って、いまさら変更できないと嘆く後日譚が付いていたのがおかしかった。候補になっていれば、この小説に対する直木賞選考委員の評価(批判を含めて)を知ることができたのに、その機会が失われたのが残念である。
早見和真は、2008年に異色の高校野球小説『ひゃくはち』でデビューした作家で、『スリーピング・ブッダ』は第2長編だ。
住職の子として生まれた広也と、インディーズバンドに見切りをつけた隆春。この二人を中心とする、僧侶をめざす四人の青年修行僧たちの物語である。野球小説の次に仏教小説ときたから愉しい。僧侶を志す若者たちの修行の日々を描く物語としてたっぷりと読ませて飽きさせない。詳細は省くけれど後半の展開が特に素晴らしい。「我いかに生くべきか」をめぐって展開する青年たちの熱い青春の物語なのである。