『東南アジアにおける汚職取締の政治学』外山文子、小山田英治編著(晃洋書房)

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東南アジアにおける汚職取締の政治学

『東南アジアにおける汚職取締の政治学』

著者
外山 文子 [著、編集]/小山田 英治 [著、編集]/三重野 文晴 [著]/山口 健介 [著]/川村 晃一 [著]/木場 紗綾 [著]/山田 裕史 [著]/Nguyen Thanh Huyen [著]/瀬戸 裕之 [著]
出版社
晃洋書房
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784771036499
発売日
2022/08/03
価格
5,280円(税込)

書籍情報:openBD

『東南アジアにおける汚職取締の政治学』外山文子、小山田英治編著(晃洋書房)

[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)

取り締まり強化 各国の事情

 新聞の書評欄に学術書、それも論文集を紹介するのは難しいが、本書は日本と関係の深い東南アジア諸国の政治体制の現在を知るうえでとても有用な1冊だ。9人の東南アジア研究者による本書の共同研究は、時間をかけて問題意識を共有し、しかも平易に論じている。

 近年、特に権威主義国で汚職取締が活性化している。背景には各国の国内事情もあるが、世界銀行などの国際機関が援助で反汚職を重視する傾向もある。本書で取り上げるシンガポール、インドネシア、タイ、フィリピン、カンボジア、ベトナム、ラオスなどの東南アジア地域でも取締に積極的だ。

 本書は各国の汚職取締機関の権限、人事、独立性、司法手続きなどを中心に、取締機関の設置自体に関しては民主化の影響が大きく、同時に統治主体の権力基盤強化の過程とも大いに関係していると分析する。

 一般に民主化とともに汚職は抑制されると思われているが、本書はこの両者に必ずしも相関はないとする。汚職取締には「世論」も無視できない要素だが、政府のガバナンス(統治)能力が関係しているという。汚職の根源に政府の脆弱(ぜいじゃく)なガバナンスがあるというのが世銀の基本認識だ。統治者の権力基盤固めや政争などに使われる可能性が高いからだろう。

 一党優位体制のシンガポール、一党支配体制のラオスやベトナムでは経済開発に必要なガバナンス強化、カンボジアでは反対勢力排除のために汚職取締が推進された。他方、フィリピン、タイ、インドネシアなどの民主主義体制下では、強い権限をもつ汚職取締機関ほど権力闘争に巻き込まれてしまう傾向が強い。

 シンガポールは経済発展のために汚職の撲滅に尽力し、その結果、今日ではクリーンな政府として世界的に認知されている。その一つの策は、政治家と公務員に事細かな倫理規定を設け説明責任を課す代わりに、彼らの給与を大幅に引き上げたことだと言われる。市民による汚職行為の通報も奨励されている。日本では難しそうな話だ。

読売新聞
2022年10月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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