「忙しそうな部下」「心を開いてくれない部下」との対話をスムーズに進めるクッション言葉の使い方
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『できるリーダーは、「これ」しかやらない[聞き方・話し方編] メンバーが自ら動き出す「30の質問」』(伊庭正康 著、PHP研究所)は、2019年に発刊されてベストセラーとなった『できるリーダーは、「これ」しかやらない』の内容をベースとして、読者からとくに要望が多かったという「聞き方・話し方」についてのノウハウをまとめたもの。
研修事業を手がける会社の代表である著者は、職場における問題の大半は対話不足が原因だと指摘しています。逆にいえば、対話さえできていれば多くの問題は解決するのだとも。
それどころか、単に部下の話を「聞く」だけで、リーダーの弱みはすべて解決すると言っても過言ではありません。
職場が無駄に忙しいことも、部下の主体性が低いことも、売上が思ったように上がらないことも、離職者が相次ぐことも、すべての問題が「聞く」だけで解決してしまうのです。(「はじめに」より)
とはいえ、ただ話を聞けばいいというわけではないようです。重要なポイントは、対話には「これだけ」は押さえておくべきだというコツがあるということ。ほとんどの上司がそうしたコツを知らないからこそ、さまざまな問題が起こるわけです。
あらゆるシチュエーションにおいて、相手の話を引き出し、自主的に動いてもらうための「パワークエスチョン」が存在します。本書ではそうした具体的な質問を紹介していきます。(「はじめに」より)
きょうはそのなかから、第3章「対話をスムーズに進める『魔法の声がけ術』に焦点を当ててみたいと思います。
猛烈に忙しそうな部下への『嫌われない声のかけ方』
忙しそうに働いている部下に声をかけるのは、多少なりとも気が引けるもの。でも、そんなときには「遠慮」をせず、「配慮」をして声をかけてみればいいのだと著者は述べています。
ビジネスはスピードが肝心。こちらが遠慮して待っている間に、その部下は他の人から声をかけられるかもしれません。その結果として声がけのタイミングを失い、重要な伝達をできず仕事に悪影響が出てしまったのでは元も子もありません。
ビジネスでは、相手が忙しいからという遠慮が功を奏することはないもの。そのため、遠慮はせずに配慮して、必要なタイミングで声をかけるべきだということです。
ところで、以下の2つであれば、どちらに配慮を感じるでしょうか?
【上司が、作業中の部下に声をかけるシーン】
A「今、いいですか?」
B「今、声をかけてもいいですか?」
(95ページより)
著者いわく、答えはB。「声をかけても」と、ほんの少していねいに伝えるだけで充分、配慮のある声がけになるというのです。また、「忙しいところ申し訳ない。こえをかけてもいい?」と、よりていねいなクッションことばを加えると、さらに配慮が伝わるとか。
配慮の対象はいろいろありますが、「期末の忙しい時期に申し訳ない」「急で申し訳ない」など、相手の“忙しさ”に配慮しておくと間違いないそうです。(94ページより)
本音を話さない部下には「as・ifクエスチョン」が効く
「なかなか心を開いてくれない部下」はどこにでもいるものですが、そういうタイプに対しては、無理に心を開いてもらおうと思わない方がいいようです。
むしろ大事なのは「聞き方を変えること」。その一例として、「“あるとすれば”、ぜひ教えてもらえませんか?」というフレーズを使って部下に尋ねてみてほしいと著者はいいます。
これは「as・ifクエスチョン」と呼ばれる技法で、固く閉ざした部下の「心の扉」をこじ開ける鍵になるというのです。事例を見てみましょう。
上司「このレポートを今週中にお願いしたいのですが、お願いしても大丈夫?」
部下「……はい。やっておきます」
(上司:納得していなさそうだけどなぁ……確認しておこう)
上司「忙しいと思うんだけど、問題はない?」
部下「……まあ、はい……」
(上司:やはり、何か思っていることがあるな。よし、as・ifで聞こう)
上司「安心した。ところで、もし、あるとすれば、ぜひ教えてほしいのだけどいい?」
部下「はい」
(上司:よし、鍵穴に鍵は入った……)
上司「あるとしたら、何か気になることはある?」
部下「……そうですね……。どうでしょう……」
(上司:鍵が固いな……。もうちょっと、回してみよう)
上司「あるとしたら、どう? どんなことでもいいので……」
部下「言っても仕方ないのですが、このレポートって本当に必要なのでしょうか?」
(上司:よし、鍵が開いた! もっと開けよう!)
上司「どうして、そう思うのですか?」
部下「ぶっちゃけ、なくても、誰も困らないと思いますけどね……」
(99〜100ページより)
このように「もし、あるとすれば?」「あるとしたら?」というフレーズをクッションことばとして挟むことで、本音を引き出しやすくなるわけです。
なお、1回でうまくいかなかったとしても、焦る必要はなし。会話を繰り返すことで親近感を覚える効果(単純接触効果)が働くため、回数を重ねれば、ほとんどの場合はうまくいくというのです。
「あるとすれば」ということばで話を引き出し、相手の“声にならない声”にまでしっかりと関心を寄せる。さらに、あきらめずに聞き尽くせば、その延長線上に信頼関係が生まれるということ。かつて著者のもとにいた「弱みを見せない部下」も、半年かかってようやく本心を打ち明けてくれるようになったそう。そしてその後は、とてもよい関係になったのだといいます。
相手が本音を話してくれないとしたら、それは相手の問題ではなく、あくまでプロセスの問題なのです。(101ページより)
たしかに、「この人はこういう人だから」と決めつけて会話を避けても、得るものはなにもないはず。むしろ聞き尽くすことで、よりよい関係が生まれるということなのでしょう。(98ページより)
前著を読んだ方はもちろんのこと、初めて目にするという方でも無理なく理解できる一冊。「聞く力」を身につけるために、ぜひとも参考にしたいところです。
Source: PHP研究所