<書評>復興を生きる 東日本大震災 被災地からの声 河北新報社編集局 編

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復興を生きる

『復興を生きる』

著者
河北新報社編集局 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784000615549
発売日
2022/08/30
価格
2,970円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>復興を生きる 東日本大震災 被災地からの声 河北新報社編集局 編

[レビュアー] 五百旗頭真(政治学者・熊本県立大学理事長)

◆再生の光と影を描き出す

 日本史上最大の地震津波であった東日本大震災。その広がりは際限がなく、万巻の書をもってしても語り尽くせないであろう。ところが、わずか三百ページ弱の本書から、不思議なほどに大震災とその復興の実相が伝わってくる。被災地を熱い思い入れを持って取材し報道し続けてきた地元紙なればこそであろう。あり得ない悲惨に突然投げ込まれた地元メディアとして、立派な記録を出版する役割を果たされたことに敬意を表したい。

 本書は巧みである。屋上まで津波に洗われた宮城県南三陸町の防災庁舎の悲劇に読者を連れ込んで大震災の何たるかを共感させてしまう。津波到達の瞬間の画面に言葉を失う村井嘉浩宮城県知事の写真に始まる対策本部の動きを追い、政治行政の対応を描く。

 復興の再検討が本書の中心テーマであり、とりわけ津波常襲地にかつてない安全なまちを再生することこそが、創造的復興の焦点であった。その点で、まち全体が津波に沈んだ陸前高田が巨大な人工丘の上に丸ごと移転するのは典型的であろう。その丘には今、空地が目立つ。巨大土木事業に九年を要したため、待てない人が続出したのである。

 その弊を回避した側も語る。一つは、高台の既存の家々の間に「差し込み型」で入り込み、大規模造成をせず、比較的短期間に移転した大船渡市のケース。もう一つは、内陸部の駅前などにコンパクトシティーを新設した宮城県山元町の例である。多くの空地とともに、家々の移転で不要になった地に高い防潮堤を巡らした無駄も悲しいと指摘する。工事費の全額を国庫からとせず、わずかでも地元負担を残せば真剣に無駄を避けようとしたのではないか。

 本書で最も感銘深いのは心の復興を描く部分である。一人だけ生き残って、と自分を責め、家族の所へ行きたいと思う。どれほど流しても、まだ涙が出る。津波で三人の子を全て失った夫婦は、子供たちの亡きがらを見つけたら自分たちも命を絶とうと思った。表紙にある美しい海辺の写真は、その後恵まれた二人の子を見守る夫婦の姿である。

 いとおしさのにじみ出る本書である。

(岩波書店・2970円)

2021年度新聞協会賞を受賞した河北新報社(仙台市)の震災10年の連載を書籍化。

◆もう1冊 

五十嵐敬喜、加藤裕則、渡辺勝道著『震災復興10年の総点検−「創造的復興」に向けて』(岩波ブックレット)

中日新聞 東京新聞
2022年10月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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