『統合失調症の一族』
書籍情報:openBD
『統合失調症の一族 遺伝か、環境か (原題)HIDDEN VALLEY ROAD』ロバート・コルカー著(早川書房)
[レビュアー] 小川哲(作家)
病気解明への半世紀
米コロラド州に住むギャルヴィン一家は、二つの意味で特異な家族である。一つは、子供が十二人もいること。もう一つは、十二人の子供のうち、六人が統合失調症を発症したこと。本書は二十世紀半ばから現代まで、ギャルヴィン一家の半世紀を描いたノンフィクションである。
鷹(たか)狩りを好む父ドンと、活発で信心深い母ミミ。二人は、十二人も子供がいることを除けば、どこにでもあるような、平穏でありふれた家庭を築くことができたのかもしれない。ギャルヴィン一家を執拗(しつよう)に苦しめることになる精神病の影は、長男のドナルドが思春期に突入したころから見え隠れするようになる。長男が発症し、次男にも兆候が出てくる。そんな中、四男がショッキングな出来事を起こす。
十二人のうち六人が統合失調症になるということは、残りの六人はいずれ自分の身にも起こるかもしれない病気に怯(おび)えながらも、最後まで正気を保っていたということだ。家に帰ると、意味不明な言葉を連呼し、手がつけられないほど暴れる兄弟がいる。母は病人につきっきりで、健常な自分には構ってくれない。家の外では、ギャルヴィン一家というだけで白い目で見られる。
本書の特徴は、ギャルヴィン一家の歩みとともに、近代医学が統合失調症という病気を解明していく模様が描かれている点にある。優生学運動があり、その反動で統合失調症の原因が家庭環境にあるとする考えが広まっていく。発病した六人の子供の面倒を見ながら、一家を切り盛りしていたミミは、「統合失調症誘発性の母親」というレッテルを貼られることになる。
統合失調症の遺伝的特質を探していた医師がギャルヴィン一家と出会い、一家のあり方が少しずつ変わってくる。もちろん病が簡単に治ることはないが、ノンフィクションでしか描くことのできないラストはこの一家の運命に希望を見出(みいだ)す。人間の強さと弱さを考えるきっかけになる一冊だ。柴田裕之訳。