<書評>『歴史と向き合う 日韓問題―対立から対話へ』朴裕河(パク・ユハ) 著

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<書評>『歴史と向き合う 日韓問題―対立から対話へ』朴裕河(パク・ユハ) 著

[レビュアー] 小森陽一(作家、漫画原作者)

◆認識のずれ 周到に分析

 毎日新聞デジタルで、二〇二一年一月から十二月にかけて連載された、「和解のために2021」をもとに本書は成立している。「慰安婦問題や元徴用工問題が日韓併合や日韓協定と結びつくようになる1990年代から現在に至るまでの、ここ30年」が、歴史的射程となっている。

 出発点は一九九一年。この年の夏韓国で、金学順(キムハクスン)さんが元慰安婦として名乗り出て、年末には日本政府に謝罪と補償を求め、東京地裁に提訴した。翌年十月「ナヌムの家」が、元慰安婦の方たちの共同生活施設として、開設された。

 この年成城大学から東京大学教養学部へ移った私は、駒場の学生自治会と教職員組合の共催で、元慰安婦の方たちの講演会を開催することが出来た。朴裕河さんと私との関わり方は、この頃から大きく変わり始めることになる。

 それまでは夏目漱石の小説を共通の研究対象とする、日本近代文学研究者仲間であった。出会う場は春と秋の学会の会場。けれども「従軍慰安婦問題」以降は、お互いの国で、人文科学系の研究者たちとの関わりを広げながら、韓日を往復横断する、いくつものシンポジウムや研究集会を開催して知的同志となった。

 けれども二〇一一年三月十一日以後の、福島原発危機以後は海峡を渡ることが困難となり、裕河さんと私はそれぞれの持ち場で活動を続け、連帯を持続してきたのである。

 本書の第一章「冷戦崩壊と日韓関係」では、この三十年間の過程で、韓日両国における、歴史認識のずれの要因が周到に分析されている。

 第二章「元徴用工訴訟問題」では、韓日両国の統治者に忘却されていた戦争動員の被害の、記憶確認の歴史化と、和解の在り方が問われていく。

 第三章「慰安婦問題」ではハルモニたちの肉声を聴くことをうながし、第四章「日韓併合・日韓協定」では、百年以上の関係の歴史的総括を提案し、第五章「歴史との向き合い方」では、韓日関係の歴史的分析を通して、「自分たちで作り上げた平和を次世代へ引き渡せる日をともに待ちたい」と呼びかけている。

(毎日新聞出版・2090円)

1957年生まれ。韓国・世宗(セジョン)大学校名誉教授。慶応大卒、早稲田大大学院で博士課程修了。

◆もう1冊

朴裕河著『帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘い』(朝日新聞出版)

中日新聞 東京新聞
2022年10月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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