生誕一五〇年を迎える岡本綺堂が描いた江戸、そして半七捕物帳

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生誕一五〇年を迎える岡本綺堂が描いた江戸、そして半七捕物帳

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 今年生誕一五〇年を迎える岡本綺堂。『修禅寺物語』などで知られる戯曲作家であり、物語の世界で「捕物帳」というジャンルを確立した人でもある。『風俗 江戸東京物語』は、『風俗 江戸物語』と『風俗 明治東京物語』という二冊のエッセイ集を合本したものだ。元日の江戸城の風景から、明治の冬の思い出まで、小気味好い語り口で、時代の空気を伝えている。

 上野の花見は静粛にしていなければならなかったので上品な人が多かったとか、『八犬伝』を書いた滝沢馬琴は物語の舞台になった房州(現在の千葉県南部)へ行ったことがなかったとか、心中に書き置きが必要とされた理由とか、興味深いエピソードばかりだが、やはり印象に残るのは「同心と岡っ引」と題した章だ。

 町奉行所の下部組織で警察事務を司っていた「番屋」。罪人逮捕に当たる「八丁堀同心」の手先を務めた「岡っ引」。その給料やどんなふうに仕事をしていたかが詳しく書かれている。本書の内容をふまえておけば、綺堂作品はもちろん、他の時代物を読んだり見たりする際にも、解像度が上がるだろう。

 宮部みゆき編の『半七捕物帳 江戸探偵怪異譚』(新潮文庫nex)は、綺堂の代表作『半七捕物帳』シリーズ全六十九編の中から選りすぐりの八編を収録した一冊だ。「江戸のシャアロック・ホームズ」とも呼ばれる岡っ引・半七が遭遇した事件を描く。江戸に流行した怪談と明治になって西洋から入ってきた探偵小説のハイブリッドである『半七捕物帳』の特色が顕著にあらわれているのは「津の国屋」。撫子柄の浴衣を着た怪しい娘の正体は、大店の津の国屋に恨みを抱いて死んだ貰い子の幽霊なのか? 謎が解かれたあと、半七親分が江戸の悪党の「気の長さ」について語るくだりがいい。

 東雅夫『お住の霊』(平凡社ライブラリー)は、綺堂の伝奇譚を二十三編収めた小品集だ。表題作は『半七捕物帳』の第一作「お文の魂」の原型となった怪談。戯曲や随筆も入っていて、綺堂の魅力を多角的に知ることができる。

新潮社 週刊新潮
2022年10月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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