日銀黒田総裁のプライドが招いた「円安の加速」と「財政赤字の時代」

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日本経済の見えない真実 低成長・低金利の「出口」はあるか

『日本経済の見えない真実 低成長・低金利の「出口」はあるか』

著者
門間 一夫 [著]
出版社
日経BP
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784296001217
発売日
2022/09/16
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

日銀黒田総裁のプライドが招いた「円安の加速」と「財政赤字の時代」

[レビュアー] 池田信夫(経済学者)

 円安が加速している。1ドルは32年ぶりの148円をつけ、150円は時間の問題だろう。その原因も明らかだ。世界的にインフレで金利が上昇する中、日銀だけがゼロ金利政策を続けているため、円を売って金利の高い国に逃げる資金が増えているのだ。それでも日銀は長期金利を0・25%で抑え込むYCC(長短金利操作)をやめない。2013年に黒田東彦総裁が就任した時に宣言した「2%のインフレ目標」が、いまだに実現できないからだ。

 著者は日銀がインフレ目標を設定した当時の理事だが、もともと日銀がインフレを起こせるとは思っていなかったという。「ひょっとするとうまくいく可能性」に賭けたが、やはりだめだった。先進国がゼロ金利の「長期停滞」に入り、金利で経済を調節できなくなったからだ。その代わり財政赤字で金利が上がるリスクは小さくなったので、財政政策の有効性は大きくなった。

 このため「政府債務はいくら大きくなってもいい」というMMT(現代貨幣理論)のような幼稚な話を信じる政治家がいるが、著者はそれに共感する部分もある、という。財務省も主流派の経済学者も「最終的には政府債務をゼロにしなければならない」と考え、プライマリーバランスの黒字化を目標にしてきたが、その使命感は正しかったのか。

 資金需要が旺盛だった20世紀には、民間貯蓄を民間投資で使い切ったので、政府は均衡財政でよかったが、貯蓄過剰で需要不足になった21世紀には、財政赤字が必要だ。しかし、政府債務が大きくなると、金利負担が増えて財政が悪化する。金利が急上昇すると国債が暴落し、それを保有する金融機関が危機に陥る可能性もある。日銀のYCCは金利上昇を食い止める非常手段だが、日米の金利差が開き、円安で輸入インフレをもたらすので、政府は為替介入で円安を止めようとする。

 これは滑稽な状況である。円安を止めるには日銀がYCCをやめればいいのだが、プライドの高い黒田総裁は敗北を認めない。20世紀には金融緩和を求める政府と、インフレを恐れる中央銀行が対立したが、いまは逆に政府がインフレを恐れ、日銀が金融緩和をやめられない。

 混乱の根底にはマクロ経済の大きな変化がある。PB黒字化やインフレ目標などという無意味な政策をやめ、財政と金融を一体にして「最適な財政赤字」を考える必要があるだろう。その司令塔には、財政規律にこだわる必要のない日銀政策委員会が適しているかもしれない。

新潮社 週刊新潮
2022年10月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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