<東北の本棚>「食べる国際協力」推進

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人から人への交易

『人から人への交易』

著者
堀田 正彦 [著]/オルター・トレード・ジャパン [編集]
出版社
亜紀書房
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784750517407
発売日
2022/06/08
価格
3,300円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>「食べる国際協力」推進

[レビュアー] 河北新報

 日本のフェアトレード(公正な貿易)の草分けとも言える貿易会社オルター・トレード・ジャパン(東京都)を立ち上げ、2020年に亡くなった著者の462ページに及ぶ遺稿集だ。生前に発表した論考や講演録、対談、座談会などを同社が編集した。食の輸入を通して貧困などで苦しむ国の生産者と連帯し、生協などとのネットワークを生かして生産者と消費者が共助し合う「民衆交易」に励んだ人生の軌跡が、浮き彫りになってくる。

 著者は青年時代は演劇に夢中になり、六月劇場などに所属し、独裁政権と闘うフィリピン教育演劇協会の活動に共鳴。それが縁で1980年代半ばにフィリピンのネグロス島を飢餓から救う活動に取り組む日本ネグロス・キャンペーン委員会に携わった。その過程で社会運動に触れ、貧しい国の自立や自然環境の保全を具現化するため、無農薬栽培のバランゴンバナナなどを取り扱う会社を創業した。

 「利他的な事業を営利的に運営する事業体」(著者)の実現に向け、社会的企業の先駆的な存在として、いかに社業を切り開いてきたのかを明らかにしている。市場拡大重視ではなく、安全な食を世界各地の小規模生産者から輸入し、暮らしの安定と自立を確立する事業スタイルだった。数々の困難に直面し、試行錯誤の連続でも発展途上国の生産者の自立と消費者の善意を信じ、社会を変革していくという理念は揺るがなかった。

 著者が推進した「食べる国際協力」とも呼べる事業は、経済優先のグローバリズムと一線を画し、顔が見える人と人とのつながりの積み重ねの成果であったことを本著が物語っている。

 著者は1948年仙台市生まれ。早稲田大文学部中退。89年にオルター・トレード・ジャパンを設立、2013年から顧問。
(沼)
   ◇
 亜紀書房03(5280)0261=3300円。

河北新報
2022年10月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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