<書評>『フェミニスト・シティ』レスリー・カーン 著

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フェミニスト・シティ

『フェミニスト・シティ』

著者
レスリー・カーン [著]/東辻賢治郎 [訳]
出版社
晶文社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784794973290
発売日
2022/09/13
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『フェミニスト・シティ』レスリー・カーン 著

[レビュアー] 水無田気流(詩人・社会学者)

◆男性前提の都市設計を再考

 都市は公共空間であり、匿名性の高い人々が集積する場である。本来多様な人々が行き交うはずの都市だが、そこにいることが前提される人物像は、通常「成人で健常者の男性」。このため、それ以外の属性をもつ人々−とりわけ女性はマイノリティの中のマジョリティだろう−にとって、都市は多くの障壁を露(あら)わにする。なぜなら、都市にとって女性は「厄介者」だからだ。

 「ジェンダーと都市」を専門とする地理学者の著者は、そもそも建築や都市設計の多くが男性の手によるものであり、女性にとっては問題が多い点を指摘する。

 イギリスでは、ヴィクトリア朝時代に街を歩く女性は、「公共の女(パブリックウーマン)=娼婦」と間違われるリスクを負ったし、現代でも街中での心ない声がけや性犯罪の恐怖に耐えねばならない。住む場所も仕事も、治安の悪い場所や時間帯を避けようとすると、収入は低くなりがちだが自弁する生活コストは上昇する。ケアワークを負担するのは女性が多いのに、都市はその点も冷淡。妊婦や子連れ女性の移動は、ましてや大変だ。

 ただ近年、ヨーロッパでは都市計画において「ジェンダー主流化」アプローチが取られるようになったという。これは「あらゆるプランニングや政策や予算決定において、出発点からジェンダーの平等性という目標を定める」もので、都市行政に関しても「社会の機能維持に欠かせないケアワークを後押しするのか、それとも障害となるのか検討」を促進するという。

 翻って、日本の現状は欧州以上の「超少子高齢化」進行の最中、ケアワーク負担の女性偏重は依然改善されてはいない。

 二〇〇六年のバリアフリー新法施行を契機に、公共交通機関ではベビーカーを畳まず乗車できるようになったが、たびたび「邪魔」と批判されてきた。背景には通勤ラッシュの混雑のひどさと同時に、「働く成人」以外を顧みない都市設計がある。「成人男性」以外の視点が乏しい、日本の都市設計問題再考のためにも、ぜひ一読をお勧めしたい。

(東辻 賢治郎訳、晶文社・2200円)

マウント・アリソン大(カナダ)准教授・ジェンダー、フェミニズム研究。

◆もう1冊

神谷浩夫編監訳『ジェンダーの地理学』(古今書院)

中日新聞 東京新聞
2022年10月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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