<書評>『プリンシパル』長浦京 著

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プリンシパル

『プリンシパル』

著者
長浦 京 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103547112
発売日
2022/07/27
価格
2,310円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『プリンシパル』長浦京 著

[レビュアー] 千街晶之(文芸評論家・ミステリ評論家)

◆戦後日本の暗部暴く抗争劇

 「プリンシパル」というタイトルとバレリーナらしき女性が描かれた表紙を見て、バレエの世界を舞台にした小説だと思った読者も多いかも知れない。だが、プリンシパルという言葉には主導者や主犯という意味もある。本書は二十三歳にしてある犯罪組織のトップとなった女性の物語だ。

 暴力団・水嶽(みたけ)本家に生まれた綾女(あやめ)は、父の稼業を嫌い教師になっていた。ところが太平洋戦争が終わった日の夜、父が病死。長兄と三兄は戦地から戻らず、次兄は病気療養中なので、水嶽本家を継げるのは綾女だけ。彼女は継承を拒むが、敵対勢力の襲撃により親しい人々を失ったことで腹を括(くく)り、反対する幹部たちを押し切って会長兼社長代行の地位に就く。

 堅気の身でありながら犯罪組織を継いだキャラクターといえば、赤川次郎「セーラー服と機関銃」の星泉、映画「ゴッドファーザー」のマイケル・コルレオーネあたりが有名だろう。だが綾女は復讐(ふくしゅう)のためとはいえ、たった一週間で組織の継承を決意し、報復においても味方や堅気の巻き添えも辞さぬ残酷さを見せる。そのやり口は、マイケル・コルレオーネやNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公・北条義時も三舎を避けるだろう。

 その後、彼女は水嶽本家を更(さら)なる巨大組織へと成長させようとするが、その過程においては、敵対勢力との抗争は無論のこと、大物政治家やGHQ(連合国軍総司令部)内の各勢力とも渡り合っていかなければならない。政治家やGHQとは単に利用し利用される仲にとどまらず、いつ寝首を掻(か)かれるかわからない危うい間柄だ。

 本書は一種のサクセス・ストーリーとも言えるが、それは何という凄惨(せいさん)なサクセスだろうか。側近たちは次々と落命し、愛した相手と結ばれることも許されず、血縁者にも裏切られ、それでも彼女は血みどろの綱渡りを続けなければならないのだ。暴虐のダークヒロイン像を通して、戦後日本における政治家とGHQと暴力団の同床異夢の関係を描ききった力作である。

(新潮社・2310円)

1967年生まれ。作家。著書『リボルバー・リリー』『アンダードッグス』など。

◆もう1冊

長浦京著『マーダーズ』(講談社)

中日新聞 東京新聞
2022年10月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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