自分の行動を変えたいときこそトライ、あえて怠惰を活かす習慣化のコツ

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自分の行動を変えたいときこそトライ、あえて怠惰を活かす習慣化のコツ

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

仕事や学校で成績を伸ばしたいとか、体力をつけたいとか、老後資金を貯めたいなど、なにかに一念発起して生活を大きく変えようとしたことがある方は少なくないはず。

またそういう方は、成功するためのノウハウが巷にあふれていることも知っているに違いなく、そうしたなにかを試してみたこともあるかもしれません。

だがあなたも気づいていると思うが、そうしたノウハウは広くもてはやされているからといって、必ずしもあなたやほかの人たちの役に立つとは限らない。(中略)

行動変容を促すためのツールや方法は、なぜ役に立たないことがこんなにも多いのだろう?

一つには、人はなかなか変われないからだ。だがもっと役に立つ答えを返すと、正しい戦略を見つけていないから、ということになる。(「INTRODUCTION『正しい戦略』で成果を上げる」より)

自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』(ケイティ・ミルクマン著、アンジェラ・ダックワース 序文、櫻井祐子 訳、ダイヤモンド社)の著者は、このように指摘しています。

つまり私たちが失敗してしまいがちなのは、行動変容に誤った戦術で取り組んでしまうからだということ。しかし成功確率を最大限に高めたいのであれば、敵を正しく評価して、乗り越えるべきひとつひとつの問題に合わせた戦略を立てることが欠かせないわけです。

そこで、行動科学者である著者は本書において、最新の行動科学の成果を用いながら、
「行動変革の方法」を説いているのです。きょうはCHAPTER 05「『怠け心』を出し抜く」のなかから、わたしたちを常に悩ませる「怠惰」についての考え方が明かされた「人は『いちばん楽な道』に流れる」に注目してみたいと思います。

怠惰は、使える「仕様」である

いうまでもなく「怠惰」とは、「なまけること」を意味する単語。そのため一般的には、努力して克服すべき悪習と見なされているかもしれません。イソップ童話の「アリとキリギリス」に代表される世界中の無数の物語が、「怠惰は破滅に終わり、勤勉は繁栄に通じる」と教えているという事実にもそれは明らか。

著者も、「この教えはもっともだ」と述べています。受け身になって流れに任せようとする、つまり「もっとも楽な道」を選ぼうとする人間の傾向にはマイナス面があるのだと。

さらには、行動変容が難しい原因も、おもに怠惰のせいなのだといいます。

「ネットフリックスをイッキ見せずに毎晩オンライン学位取得のために勉強しよう」「食事をテイクアウトですませずに自炊しよう」などと決意しても、“怠惰といつもの行動パターンへの惰性”が妨げになることがあるのだと。

しかし、怠惰は悪いとは限らないのだとも著者はいいます。人間の生来の怠け癖を「バグ」と見なす代わりに、多くのプラス面のある「仕様」と考えているというのです。

もちろん、怠惰が行動変容の妨げになり得ることは疑いようもありません。しかし他方では、膨大な時間と労力を無駄にするのを防いでくれるというメリットもあるというのです。

1978年にノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンが、独創性に富んだ著書『経営行動』(ダイヤモンド社)の中で指摘するように、「最も楽な道を選ぶこと」は、まさに世界最高のコンピュータプログラムが、コストのかかる処理能力を節約して問題を解くためにやっていることなのだ。

最高の検索アルゴリズム、たとえばグーグルの贅沢なマウンテンビュー・キャンパスの建設資金を稼いだアルゴリズムなどは、すべてのあり得る選択肢を検討する代わりに近道を取り、そのおかげで速く効率よく動作することができている。

人間もこれと同じコツを使って効率性を高めるよう進化した。(217〜218ページより)

たとえば著者は毎朝の日課を考えなおさないほど怠惰なおかげで、最初にシャワーを浴びるべきか、歯を磨くべきかで迷ったり、朝食になにを食べるべきか、どの道を通って職場まで行くかで悩んだりせずにすんでいるのだとか。

怠惰は役に立つこともあり、しかも単に効率が上がるというだけではないというのです。つまり怠惰を適切に活用すれば、行動変容を促すことができるということ。(216ページより)

「デフォルト」にする

著者は、「デフォルトにする」、すなわち「わざわざ変えない」性質を利用するべきだとも説いています。

デフォルト(初期設定)とは、利用者が意識的に別の選択肢を選ばないときに、システムによって自動で選ばれる選択肢をいう(新品のコンピュータの工場出荷時の設定などがそうだ)。

デフォルトが賢く設定されていれば、利用者は指一本動かさずに最善の決定を下すことができる。効率性を好む人間の性質のおかげで、ほとんどの人がデフォルトの選択肢を選ぶからだ。(219〜220ページより)

でも、惰性が邪魔になっていて、しかもデフォルトスイッチを使えない場合はどうやって行動変容を促すことができるのでしょうか? この問いに対して著者は「習慣」の重要性を強調しています。

習慣とは、意識的、無意識的に何度もくり返し行ううちに、自動的に行えるようになった行動や手順をいう。ひと言でいえば脳のデフォルト設定、つまり意識的処理なしで行われる反応である。

神経科学の研究によると、習慣が発達するうちに、論理的思考を司る脳の部位(前頭前皮質)への依存が薄れ、行動や運動制御を司る部位(大脳基底核と小脳)への依存が高まるという。(223~224ページより)

よい行動をくり返して習慣化する手法は、さまざまなことに役立てられているそう。たとえば新しいコーヒーメーカーの使い方を理解するためには、意識を集中する必要があり、時間もかかるでしょう。

しかし毎朝くり返しているうちにそれは習慣になり、やがて素早く、なにも考えずに朝の一杯を淹れられるようになるわけです。

退屈そうに聞こえるかもしれないけれども、習慣を身につけるには反復練習が欠かせないということ。そのため、よい習慣を身につけたり、悪い習慣をよい習慣に替えたいのであれば、計画的にくり返し訓練する必要があるということです。(219ページより)

『GRIT(グリット) やり抜く力』(ダイヤモンド社)で知られるペンシルベニア大学心理学教授のアンジェラ・ダックワース氏は、本書に寄せた序文でこう述べています。

ケイティが勧めるアイデアを試してみると、なぜいままで考えつかなかったんだろうと思うはずだ。そしてあなたは新しい目で生活を見直し、ケイティでさえ考えもしなかった方法を次々と生み出すだろう。(「序文 あらゆる専門家と協力してわかったこと」より)

重要なポイントは、欲望も欠点もない超人になることではなく、最新の科学的知識をもとに問題を解決していくことだそう。したがって、本書を参考にしながら新たなスタートを切ってみれば、自分をよりよい方向に変えることができるかもしれません。

Source: ダイヤモンド社

メディアジーン lifehacker
2022年10月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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