【聞きたい。】鈴木心さん 『鈴木心写真館のつくり方』
[レビュアー] 産経新聞社
■最高の体験を提供する
見慣れた家族のとびきりの表情に驚き、わいわい話しながら最高の一枚を選ぶ―。平成23年から取り組み続けている「写真館」プロジェクトへの思いをまとめた著書を刊行した。これまで家族やカップルなど約1万7千組を撮影、東京に2店を構えるまでになった。
「一枚の『作品』で自分の思いを語るより、一人でも多くの人に最高の写真体験を提供する方が、現代の写真家として僕がやる意味がある」
人気広告写真家として多くの企業の新商品PRやキャンペーンに携わる一方、個展で自分の作品も発表してきた。なぜ写真館なのか。
東日本大震災後の自粛などで広告業界が混乱し、個人が直接つながれる交流サイト(SNS)が台頭する中で、「ユーザーが主人公になって、そこに写真家が関われる『仕組み』」の必要性を感じたと言う。「自分が被写体になることで、写真の面白さを体感してもらえる」と今までにない写真館を目指した。
最初はイベント会場の片隅を使い、料金は千円以上の「投げ銭」でスタート。全国に「出張」を重ね、料金やシステムを模索し、29年に東京・世田谷での「開店」にこぎつけた。
誰もがスマートフォンを手にし、写真があふれる中でも家に長く飾られ、思い出と共に世代を超えて受け継がれる家族の記念写真を撮影できることに、広告を通して何百万人の目に触れたり、作品がギャラリーに展示されたりする以上のやりがいを感じている。
「質の高い写真は会話を生み、人の考え方も変える力がある」。使用する機材、撮影からプリントまで1時間で終わらせるポイントなど、ノウハウを惜しげもなく記した。「著書は遺書のつもり。僕がいなくなっても誰かが拡張してほしい。まねも大歓迎です」
写真の面白さを伝えるユーチューブチャンネルなどの運営にも力を入れる。「皆が優秀なカメラマンになればコミュニケーションは変わり、社会も変わると本気で思っているんです」(玄光社・2420円)
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【プロフィル】鈴木心
すずき・しん 写真家。昭和55年、福島県生まれ。著書に『鈴木心の撮影ノート』など。