『ウクライナの教訓 反戦平和主義(パシフィズム)が日本を滅ぼす』
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『ウクライナの教訓 反戦平和主義が日本を滅ぼす』潮匡人著
[レビュアー] 菅原慎太郎(産経新聞プレミアム特任編集長)
■北方領土はどうする
「日本が北方領土を取り返す絶好のチャンスとも言えよう」。ロシアのウクライナ侵攻で始まった戦争をめぐり、日本はどう立ち回るべきか、さまざまな論評があるが、これほどはっきり核心を突いたものは他にあるだろうか。
ロシアは今、ウクライナを攻めあぐねている。極東の兵力をはるか西のウクライナへ差し向けるほどてこずっているらしいが、それなら当然、北方領土も手薄にならざるを得ないのだから、日本にはチャンスではないか、というのである。ウクライナが侵略されたのを奇貨として漁夫の利を得ようという火事場泥棒ではない。極東で日本が北方領土の不法占拠を脅かせば、ロシア軍はウクライナに集中できなくなるから、むしろウクライナを助けることになる。
これぐらいは軍事の専門家でなくとも思いつくはずだが、ロシアが怖いからか、憲法9条の精神に反するからなのか、大手新聞やテレビでは誰も言わない。そこで自衛官出身の直言居士、著者・潮匡人氏が書いたのだろう。
北方領土にかぎらず日本の軍事外交について幅広く展開される本書の反戦平和主義批判の中でも、この部分はハイライトといえるが、当然、数々の反論が予想される。怒ったロシアが日本に侵攻するぞ、核兵器を使うかも、中国を利することにもなる、そもそも米国が認めない…など。
ただ、本書は「すぐ北方領土に攻め込め」などと主張するわけではない。国際政治のオプションは数多くあり、日本はウクライナ侵攻という重大事を前にして、軍事的選択肢のメリット、デメリットを議論すらしないのかと批判しているのだろう。だから皮肉交じりにこうも書く。
「『力による現状変更』であり、『戦後教育に毒された世論』はもとより、多くの読者も『こうした行動を歓迎しないだろう』」
しかし、である。ならば、どうすれば北方領土を取り返せるのか。何もなさず、何も考えない、反戦平和主義の現実を突きつけるのが本書だ。(育鵬社・1760円)
評・菅原慎太郎(産経新聞プレミアム特任編集長)