戦国時代の終焉にこんな舞台裏があったのかも、と胸の高鳴りを覚えた 『東京バンドワゴン』シリーズの作者・小路幸也による歴史時代小説

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

素晴らしき国 Great Place

『素晴らしき国 Great Place』

著者
小路 幸也 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758414265
発売日
2022/08/31
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

[本の森 歴史・時代]『素晴らしき国 Great Place』小路幸也

[レビュアー] 田口幹人(書店員)

『素晴らしき国 Great Place』(角川春樹事務所)は、数多くの人気シリーズを世に送り出してきた小路幸也さんが挑んだはじめての歴史時代小説である。

 代表作である『東京バンドワゴン』シリーズの大ファンである僕は、年に一度、堀田家の面々に会える4月後半を毎年楽しみにしている。というか、僕も家族の一員だとさえ思っている。

 僕は、小路氏の作品は「優しさ」と「愛」でできていると感じる。そんな小路氏がどんな歴史時代小説を書いたのかワクワクしながら読み進めた。

 読み終えて最初に感じたのは、独特の視点の面白さだった。

 織田信長、明智光秀という歴史上もっとも有名な人物たちにつながる物語であることから、概ね歴史の顛末については周知の事実の通りであろう。本書は、歴史を動かした人物たちと深く関わり、理想とする争いのない〈素晴らしき国〉をつくる企てをしている者たちの視点で描かれているのだ。

 戦国時代の終焉にこんな舞台裏があったのかも、と思うと胸の高鳴りを覚えた。

 物語は現代からはじまる。大学で社会学を教えている私は、授業の一環で行われたフィールドワークで、実家にあった戦国時代に描かれた一枚の肖像画と、うり二つの女性の存在を知る。

 女性に面会を申し込んだところ、二十年間待ってほしいとはぐらかされたが、二十年後ようやく対面が叶う。その姿を確認した時、私は、彼女が抱えている秘密を知ることになるのだった。

 その彼女は、私の実家にある肖像画を描いたのは、後世に明智光秀と呼ばれた人物であり、肖像画に描かれているのは自分だと明かす。

 ここから戦国時代へと時代がさかのぼり、舞台を美濃の国と尾張の国の境目、木曾川の支流である二似見川のほとりにあった〈いよの国〉に移す。

 この地は、長いこと閉ざされていて、争いがなく穏やかで豊かな〈素晴らしき国〉を造るための礎となる人材を育てるためにつくられた国だった。

〈いよの国〉で暮らす智慧と様々な能力にたけた者たちは、〈素晴らしき国〉を実現できそうな、明智光秀やちょうのように、国を治める強い力を持った者の元に送り込まれ、その手助けをすることを目的として暮らしていた。

 その中心にいたのが、肖像画に描かれていたふじみだったのだ。

 本書はこれから続く長い物語の序章であり、今後、シリーズ化されると考えられる。

 これまでと同様に、本書もまた、優しさと愛を感じることができる物語だった。早く続きを読ませてほしい。

新潮社 小説新潮
2022年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加